朝ドラ『虎に翼』親友・花江が加わった「大日本国防婦人会」とは? 女性を戦争に利用した日本軍のたくらみ
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第8週「女冥利に尽きる?」がスタート。主人公・猪爪寅子(演:伊藤沙莉)は佐田優三(演:仲野太賀)と結婚し、佐田寅子となって弁護の依頼数も順調に増えている。一方日本はかねて続いていた日中戦争に加え、昭和16年(1941)12月の真珠湾攻撃を皮切りに太平洋戦争に突入した。今回は戦時下で活動した「國防婦󠄁人會」を取り上げる。 ■主婦たちが銃後の戦争協力や思想統制に利用された 寅子の親友であり、兄・猪爪直道(演:上川周作)の妻となった花江(演:森田望智)は、はる(演:石田ゆり子)と共に昭和初期の主婦像を見せるキャラクターだ。今日の放送では、その花江が「大日本國防婦󠄁人會」と書かれたタスキを着けて現れた。後ろではラジオが東南アジアにおける日本軍の戦況を伝えていた。 「國防婦󠄁人會(国防婦人会)」とは、一般の主婦らで構成される婦人団体である。割烹着にたすき掛けがトレードマークで、「国防は台所から」をスローガンに掲げ、出征兵士の見送りや残された家族のサポート、傷病兵や遺骨の出迎え、慰問袋(戦地の兵士へ雑貨等を詰めて送る袋)の作成と発送、陸軍病院などでの洗濯といった活動を行っていた。 その始まりは、昭和7年(1932)まで遡る。昭和6年(1931)に満州事変、そして昭和7年(1932)に上海事変が勃発すると、大阪港付近に暮らす主婦らが協力し、出征兵士や、召集に従って帰郷する若者らを茶などでもてなしたことが原点となっている。そうして発足した「大阪国防婦人会」は、やがて軍に活動を後押しされるようになり、愛国婦人会、大日本連合婦人会等と統合されて「大日本国防婦人会」として全国に拡大した。 女性たちにとっては、若くして結婚し、嫁いだ家で家事・育児に追われ、参政権などの社会的権利もないなかで、自身が社会に出て仲間と共に何事かを成し遂げるというのは新鮮で有意義なものだった。「生まれては親に、嫁しては夫に、老いては子に従え」が当然だった時代、女性が主体となって活動するということにおいて、やりがいを感じる女性も多くいたそうだ。その点でいえば、国防婦人会が一種の「女性解放」という側面を持っていたことも否めない。 これを踏まえると、花江がどことなく達成感のようなものを滲ませていたのも頷ける(少なくとも嫌々参加している様子ではなかった)。まだ日本軍の勝利がラジオから聴こえ、身近な男性に召集令状(赤紙)が来ることもなく、食卓に並ぶ品数が減ったとはいえそれほどひもじい思いもしていない段階だ。彼女にとっては、かつて寅子や女子部の面々を見て感じた“孤独感”や“自分は何事も為せない”という劣等感を癒す時間でもあったのかもしれない。 ところが、そうした女性たちの想いは利用されていた。軍にしてみれば、家事・育児をしながら銃後の戦争協力としての活動をしてくれるのは都合が良かったのだ。昭和12年(1937)に日中戦争が始まると、余計に男手が減っていったからである。同時に、婦人会を利用して女性たちに「強い子を育て、兵士として送り出すのが母親のあるべき姿」、「お国のために命を懸けるのは名誉なことである」といったことを植え付け、反戦や国体批判といった考えを持たせないよう、思想統制をしたいという思惑もあった。 やがて女性たちは夫や息子に赤紙が届けば喜んでみせ、「おめでとうございます」という言葉を言ったり受け取ったりし、そして戦死の知らせが届いても人前では涙も見せられないような苦しい日々をおくることになるのである。
歴史人編集部