彼はまだ闘い続けている──。胸アツで泣ける熟年ヴァン・ダムの正統アクション映画「ダークネスマン」を見よ
ジャン=クロード・ヴァン・ダムは「サイボーグ」「キックボクサー」(共に89年)の2作で衝撃的に登場したアクションスターだった。美しく精悍なマスクもさることながら、なにより格闘シーンが斬新に映った。脚を180度開いた両サイド同時キック、頭より高く蹴り上げる回し蹴り、目にも止まらぬスピードで繰り出す拳や掌底など、立ち技系格闘アクションで彼の鮮やかさを超える俳優はどこにもいなかった。 「ダークネスマン」予告編 あの衝撃から30余年……ヴァン・ダムは今も闘っている。60歳を超え、速さも美しさも失ったが、まだライオンハートは失っていない。12月4日よりレンタル開始される「ダークネスマン」を見よ。そこには決して若くないが、演技に渋みが出て、胸アツで泣ける熟年ヴァン・ダムがいる。彼の絶頂期を知るファンはもとより、若者にもぜひ見てほしい、これがシニア世代のハードボイルドだ!
酒に溺れながらも、愛した女が遺した少年のためにギャングと闘う男
ロサンゼルスに住むヴァン・ダム演じる主人公ラッセル・ハッチはかつて、ヨーロッパから派遣されたベテランCPO(インターポール)捜査官だった。麻薬捜査の過程で知り合った情報提供者の韓国系女性エスター(金本千佳)と恋仲になるも、ハッチが別の捜査で銃撃戦をしている最中、彼女は麻薬組織に自宅を襲撃され殺されてしまう。生前、エスターから一人息子ジェイデン(エマーソン・ミン)の面倒を見てほしいと託されていたハッチは、捜査の失敗からCPOを去り、アルコールに溺れ自堕落な日々を送りながらも、律儀にジェイデンの世話を焼いた。が、成長したジェイデンは同じ地区に住むコリアン・ギャングたちに誘われ麻薬取引に関わろうとし、ハッチを悩ませる。 一方、ギャングのアジトがあるリトル・コリアにはロシアン・マフィアが進出し、コリアンたちと軋轢が生じていた。過激化する抗争に巻き込まれるハッチとジェイデン。残酷な殺人事件が連続する中、ハッチはエスターとの約束を守りジェイデンを救おうするが……。 デビュー間もない頃、絞りきったマッチョなスタイルと美しいマスクで一躍人気になったヴァン・ダム。しかし本作の彼は昔とはまったく違う。シワが刻まれた顔に無精ヒゲ、ヨレヨレのコートを着て背中を丸めて歩く姿は、まるで人生の負け犬だ。若き日のヴァン・ダムを知らない人が見たならば、「誰なんだ、このオッサンは?」と考えてもおかしくない。 「ブルージーン・コップ」(90)、「ライオンハート」(90)「ユニバーサル・ソルジャー」(92)、そして「タイムコップ」(94)、絶頂期のヴァン・ダムは目を見張るアクションで世界中の映画ファンを熱狂させた。だが月日は残酷だ。2000年代になるとマッチョなヒーローの活躍するアクション映画は人気を失い衰退していった。 そんな中、ヴァン・ダムは忘れられてゆく自分自身をネタにした映画を企画した。「その男ヴァン・ダム」(08)は落ち目の俳優の自身をそのまま演じたドキュメント風映画、そして「ネバー・ダイ 決意の弾丸」(18)では、戦場の傷跡で薬物中毒になりヨロヨロしながらギャングと戦うダメ人間を演じている。実際にヴァン・ダムは双極性障害を診断されて離婚した過去もあり、私生活の荒廃を映画に反映させたい志向があるのかもしれない。