森田剛の思う“言葉の信用性”「本心は目と言葉に出る」
ドラマ『アナウンサーたちの戦争』(NHK)が2023年8月に放送されてから、一年。このたび劇場版として全国公開されるにあたり、主人公の伝説のアナウンサー・和田信賢を演じた森田剛は「あらためて、この作品に参加できた喜びを感じています」と心中を教えてくれた。 【全ての写真】森田剛の撮り下ろしカット 太平洋戦争時におこなわれていた、アナウンサーたちによる電波戦を描いた本作。この物語は、決してフィクションではない。かつて実際に起こっていたことだ、と史実を噛み締めながら、和田の思いやプレッシャーを追体験した森田。撮影当時のことを振り返ってもらいながら、和田信賢をどう捉えているかを含め、言葉の持つ重みについて問いを投げてみた。
伝説的アナウンサー・和田信賢を演じて感じた「言葉の重み」
太平洋戦争時、アナウンサーたちはラジオに乗せる言葉の力で、国民の戦意を高揚させろ、という国の意図を背負っていた。いわゆるプロパガンダに加担していたことになる。 実在したアナウンサー・和田信賢を演じるにあたり、脚本や資料を読み込んだ森田は「彼のように、嘘のない言葉を話す人を演じることに、興味があった」という。 「本編で出てくるセリフのように、和田さんは『虫眼鏡で調べて、望遠鏡で喋る』を、そのまま地でいくような人なんです。徹底的に調べる。人に会う。話を聞く。聞いた言葉を噛み砕いて、自分の言葉で喋る。そんなふうに『嘘のない言葉にこだわった』人だからこそ、誰よりも傷ついて、悩んで、葛藤した。そんな和田さんを、いまの自分なら表現できるんじゃないかと思いました」 なぜ、いまならできると思ったのか。一言でいうなら「直感だった」という。男性アイドルグループ・V6として、歌手やタレント、俳優活動を並行し、2021年から独立した森田。「いろいろ経験したうえで、なんというか、痛みを知って……それを強さに変えることに、興味がわいたのかな」と、まさに自分の言葉を探しながら話してくれる。 「和田信賢さんって、ぐちゃぐちゃなんですよ。もう、中身がボロボロなんです。それでも、自分が信じた言葉を一生懸命、世のなかに伝えようとする姿に、心を打たれたんだと思います」 伝説のアナウンサーとして名が知れている和田信賢を演じたことで、森田が痛感したのは「言葉の重み」だった。 「和田さんはアナウンサーだから、実際に喋るときはマイクに対峙しています。でも、その言葉は、マイクの向こう側で聞いている人たちに発されているんです。自分の言葉を電波に乗せる。それを受け取る人がいる。怖さしかないですよね。和田さんの心境はもちろん、それを聞いている人たちのことも想像しながら演じていました」 役との巡り合わせは、俳優としての運にも関わる。どの作品に携わり、どんな役に恵まれるかは「自分ではコントロールできないところ」としつつも、演出の一木正恵の計らいによって和田信賢を演じられたことに、森田は感謝の言葉を繰り返した。 「いまの僕を見て、和田信賢を演じられる、と思ってくれたこと。それを信じてくれたこと。さまざまな幸運が重なって、この作品に参加できたと思っています」