令和ロマン・高比良くるま M-1連覇、漫才の傾向、成功人の「戦略」…初の著書「漫才過剰考察」は出し惜しみなし
漫才日本一を決める「M―1グランプリ2024」で史上初の2連覇を果たした漫才コンビ「令和ロマン」の高比良くるま(30)は初の著書「漫才過剰考察」(辰巳出版、1760円)で漫才を書き尽くしている。裏側を語らないことがよしとされてきたお笑い界でなぜ、ここまでつづったのか。くるまは「ちょっとは語っていかないと人材の取り合いに負けちゃうから」と説明。その一方で3連覇を目指さない考えも明かした。(瀬戸 花音) ―完成とは、絶望じゃなくて希望なんだということだ。これか、これを伝えるために令和ロマンは優勝したのか。よかった。ものすごく視界が開けた―。くるまが、本書につづった一節だ。漫才師としてのもがきと、M―1という大会への希望があふれた言葉だ。 2018年、プロ1年目でM―1準決勝に進んだ時、「自分はM―1のために存在している」と思ったという。今年の決勝前、こちらが「今も、M―1のために存在していると思いますか?」と尋ねると、「今が一番思えてますね」と返ってきた。即答だった。「2年連続決勝に行けた。本当に、M―1のために仕事した気になりますよね。記者会見して、写真撮影があって、夜中までいろんなインタビュー受けたり…何か今が一番漫才に、M―1に尽くせてるなあって思えています」 本書では、これまでのM―1の分析、新型コロナ禍が明けた現在の漫才の傾向、今後の予想、さらに成功への「戦略」のようなものも。手の内を開示しており“過剰考察”とも取れる内容だ。「お笑いも転換期にある中で、今のこのタイミングでこういう考えのやつが優勝したんだっていうことが、残った方が絶対にいいだろうと思ったんです。自分が優勝した意義を考えたら、お笑いをちゃんと語って、学問することが重要なのかなと」 包み隠さずつづることが、お笑い界の未来への草の根活動になると考えた。「お笑いは語ったり考えたりしないのが美学とされてきた。僕もそれには共感はしてる。だけど、テレビも朝から夜まで芸人の番組がほとんどで、紅白の司会も芸人がやってて、それで『何も考えてません』って謙遜は逆にうざくないですか? 例えば女の子がかわいくなるために『何にもしてません』っていうより、『こういうメイクをしたからこうかわいくなりました』っていう話をしてくれた方が素直に受け入れられるじゃないですか」 そして、全てをつづることで「おもしろいやつ」が芸人を目指すきっかけになると考えている。「どっちがおもしろいかは置いておいて、実際YouTuberに人材は流れている。言わない美学はかっこいいですけど、もう、ちょっとは語っていかないと取り合いに負けちゃうから」 22日、連覇を果たした。これからも、M―1に尽くしていくつもりなのか。「出るっていう尽くし方は、今のとこ今年が最後かな」と明かす。 フジテレビで6年間、番組スタッフのアルバイトをしていた過去を持つ。今描くこれからの「尽くし方」は、裏方としての発想だ。「例えば、音響問題の改善ですね。お笑いの人気が出てきて、ライブやる会場もキャパ5000人とかのでっかいホールになったりしてて。M―1の敗復もそうですけど、そのキャパの会場の音響って、音楽ライブやってきた音響さんがやったりするんです。お笑いのプロはいなくて、漫才の声をエコーかかったように響かせちゃう。何言ってるか聞こえなくて、悲しい。でも、それはしょうがない。だってその音響さんは声をきれいに響かせるプロなんだもん。だから、僕らでお笑いに特化した音響チームが来年以降、作れたらいいよねって考えてます」 決勝の放送では「次は審査員をやりたい!」とも話した。もちろん、その野望もある。「やりたいですね。来年からでもやりたいです。正直、ネタやるより、審査員やる方がめちゃ自信がある。あとは…いつか(決勝MCの)今田(耕司)さんも引退されるかもしれないですしね(笑)」 プロ1年目でM―1準決勝進出、6年目で優勝、7年目で前人未到の連覇…輝かしくスターダムを駆け上がった。それでも自分たちが主人公ではなく、まるで舞台袖にいるかのように俯瞰(ふかん)でM―1を、漫才を、芸人たちを見つめている。「あんまり自分に興味がないからかな。自分をそこ(主人公)に置ける人もいれば、自分みたいに置けない人もいる。自分はあんまり人がやりたくないことをやりたいと思っています」 取材中、テーブルの上には本書のサイン本が山積みになっていた。「サイン本ってどこまで売れ続けるんでしょうね。僕がサインを書き続けたら、どこまで売れるのかちょっと見てみたいな」と楽しげに言った。純粋で飽くなき探究心をのぞかせるくるまは、未来でどこにたどり着くのだろうか。 ◆高比良くるまが選ぶおすすめの一冊 ▼アオアシ(小林有吾、小学館) もう本当にとりあえず今、アオアシだけ読んどいた方がいいですね。最新刊の帯を書かせていただいたんですけど、最新刊まじでやばいです。ゲラをもらっていたので、M―1の準決勝の前の日に読んだんですけど、本当に読んでおいてよかったなと。すげえ感動しました。 アオアシ読んでると自分と重ねますよ。漫画としてめちゃくちゃとがってるんで。サッカーを題材にあれだけサッカーに切り込んで、サッカーの悪いところも全部言って、その上で問うというのがすっごいしびれますね。勝負している人間は全員読んだほうがいいです。 ◆高比良(たかひら)くるま 1994年9月3日、東京都練馬区出身。30歳。慶大時代、お笑いサークル「お笑い道場O―keis」で出会った松井ケムリと「魔人無骨」を結成。18年、「NSC大ライブTOKYO」で優勝し、NSC東京校23期の首席に。同年、M―1で準決勝進出。19年、コンビ名を「令和ロマン」に。23年、M―1初優勝。24年7月、「ABCお笑いグランプリ」優勝。同年12月、M―1連覇。ボケ担当。趣味はビールを飲むこと。
報知新聞社