〈彼らの仕事で新幹線は脈打つ〉”グループ唯一”電気の匠たち
架線の取り換えを行う日の何カ月も前から準備が始まる。まず、JR東海が作業日を決めるが、それも簡単には決まらない。作業日には最寄りの保守基地から高所作業用の保守車両が出動する。しかし、線路上では他の保守作業が行われており、それらの保守車両が進路上にあると現場にたどり着けない。そのため、ほかの場所の保守作業の状況もにらむ必要がある。 日程が決まると、JR東海、新生テクノス、トーカイテックの3社が現場で実地調査を行う。架線と同時に取り換える金具などの部品も確認する。交換が必要なら、作業日までに確実に間に合うよう、3~4カ月前には発注する。 保守車両の手配も重要だ。一晩の作業で7~8機の保守車両が必要となるが、車両には様々な種類がある。現場の状況を踏まえて足場の広さ、作業性の良さなど各機の特性を見極めながら、最も適した車両を選ぶ。 作業も手間がかかる。3~4日前には新しい吊架線を張る。この時点では既存の3本の架線と新しい吊架線の4本が張られた状態である。そして、取り換えの当日は、既存の3本のうちトロリ線を新しい吊架線の下に付け換える。後日、不要になった架線を1本ずつ取り除き、ようやくすべての作業が完了する。
静寂の中始まった点呼自分の持ち場へ向かう
小雨混じりの10月のある深夜、米原~京都間で行われた取り換え作業の様子を見学した。下り線の1.6キロ・メートルが取り換え対象となる。作業場所の近くは人家も少なく、周辺は闇に包まれている。そこへ作業員を乗せた自動車が続々と到着した。集まった作業員は総勢約30人。 23時半に点呼が始まった。2人1組で持ち物や役割分担を確認。全員で準備体操をして体をほぐした後は、工具や命綱が入った重さ10キロ・グラムの腰道具袋を体に巻いた。目の前を新幹線の最終列車が走り去ると、もう新幹線が来ないことを確かめて作業員たちは線路内に入った。 0時すぎに米原方面から7機の保守車両が連結してやってきた。作業員たちの手前で停止すると、連結を外して、1機ずつ数人の作業員を乗せて持ち場に向かう。1.6キロ・メートルの区間をこの7機が担当する。保守車両の前で作業の様子を見ていると、みなサーカスの軽業師のように、ひょいひょいと架線と保守車両の間を移動する。重さ10キロ・グラムの腰道具袋を体に巻き付けていることなどまったく感じさせない。