米で相次ぐ警官の黒人射殺 クリントン候補が問題視 州最高裁判決にも注目
黒人男性が警察との接触を避けることを正当化する判決
警察官による「武力の行使」が社会問題となっているアメリカでは、人種問題もその背景に根深く存在すると指摘されてきた。黒人やヒスパニック系といった「マイノリティ」が標的にされているという指摘はこれまでにも存在したが、スマートフォンやSNSが普及したことによって、パトロール中の警察官が簡単に銃を発砲する現実が明るみになり始めた。白昼に丸腰の黒人が警察官から警告をほとんど受けない状態で射殺されるケースもあり、そういった様子がネット上で拡散することも珍しくなくなった現在、警察のマイノリティに対する接し方を批判する声は全米各地から噴出している。 そのような状況の中、20日に米東部マサチューセッツ州の州最高裁が下した判決に注目が集まっている。マサチューセッツ州最高裁は、2011年12月にボストン近郊で銃の不法所持で逮捕された黒人男性に対し、無罪とする判決を下した。2011年12月、ボストンのロクスベリー地区で窃盗事件の通報を受けた警察が、被害者宅周辺で捜査を行っていたところ、公園にいた2人の黒人男性を発見。 「容疑者はパーカーを着ていた」という目撃情報と同じように、2人の黒人男性もパーカーを着ていたため、警察官が職務質問しようとしたが、2人は近づく警察官から逃走した。その後、1人は逮捕され、所持品検査も行われたが違法な物はなにも発見されなかった。また、逮捕された男性は窃盗事件とは無関係であった。しかし、警察は公園で発見した22口径の拳銃が男性のものであった可能性が高いとして、男性を銃の不法所持であらためて逮捕した。 マサチューセッツ州最高裁は20日に下した判決の中で、「黒人男性が警察との接触を避けるために逃走しようとするのには、正当な理由が存在する場合もある」として、黒人が警察による行き過ぎた取り調べや職務質問の対象になっている現状に問題提起を行った。米国自由人権協会(ACLU)の調べでは、2007年から2010年の間に警察官によって職務質問を受けた市民の60パーセント以上が黒人で、ボストンに住む黒人の割合(全体の約24パーセント)を大きく上回っていた。また、職務質問はパトロール中の警察官の判断によって行われるが、犯罪には全く無関係の黒人が路上で職務質問や所持品検査を求められるケースは依然として少なくなく、このような職務質問が黒人に対して多いままの現状には人種問題が少なからず影響しているという指摘も存在する。 アメリカでは警察による職務質問や所持品検査は、一般的に「テリーストップ」と呼ばれ、1968年に米最高裁判所が「警察は不審人物を一時的に拘束し、必要な場合には所持品検査を行ってもよい」という判例が出てからは、警察による職務質問は慣例化するようになった。テリーストップの語源は、職務質問の不当性を訴えたオハイオ州に住んでいた男性の名前で、オハイオ州を提訴したものの、米最高裁は最終的に警察の職務質問や一時的な拘束などを認める判決を60年代後半に下したのだ。今回のマサチューセッツ州最高裁の判決は、テリーストップの正当性を否定するような内容でもあった。ボストンの公共ラジオ局WBURの記者で、20日の州最高裁による判決をレポートしたゼニンジョー・エンウェメカさんは、今後の展開について語る。 「まだ判決が出たばかりということもあって、マサチューセッツ州だけではなく、全米でどのような影響が出てくるのかを語るには早急すぎます。しかし、司法側が警察の手法に一石を投じたという意味では、非常に画期的な判決であったと思います」 一般的にボディカメラを導入した自治体では、警察官による発砲や警察への苦情が減少傾向にあるとされているが、ボディカメラ導入に消極的な自治体も少なくない。エンウェメカさんは「ボストンでは今月になってようやくカメラの試験的導入が始まりましたが、当初の予定から大幅に遅れての開始でした。ボストン市警の組合から導入に反対する声が強かったためです」と語り、昨年秋に試験運用が予定されていたボディカメラを用いたパトロールに、現場の警察官から反対の声が強かったことを明かした。現場の警察官がボディカメラの着用に消極的な理由として、普段の仕事ぶりが映像として記録されることに心理的なプレッシャーを感じる警察官が少ないからだという指摘もある。また、カリフォルニア州で行われた警察官のボディカメラ着用に関する調査では、ボディカメラを着用してパトロールを行う警察官の方が、カメラなしでパトロールする警察官よりも、15パーセントほど市民に 襲われる確率が高くなるのだという。 ボディカメラやドライブレコーダーによって、警察官の現場での動きを市民が知ることができるようになり始めたが、警察官による発砲がストップする気配は残念ながらない。加えて、これまで警察官が当たり前にやってきた職務質問や所持品検査についても、データ上では特定の人種がターゲットにされていることが一目瞭然だ。人種から宗教まで、警察官と市民との間には多くの壁が存在している。これらの壁を無くし、風通しを良くするためには、アメリカで長年にわたって存在する「警察文化」を見直し、新しい教育を新人警察官らを対象に施していくのがベストではないだろうか?