<憲法記念日に再考> 憲法とは何だろう? 木村草太・首都大学東京准教授
憲法記念日ということで、憲法について考えてみよう。もっとも、「立憲主義とは」などと抽象的な議論をしたところで、説教くさいばかりで面白くない。そこで、具体例からアプローチしてみよう。今日、取り上げたいのは、辺野古基地建設問題だ。 沖縄県宜野湾市には、日米安保条約に基づき普天間基地が設置されている。普天間基地は市街地のど真ん中にあるため、事故の危険の面でも、都市計画や交通への悪影響の面でも、地元住民にとって重い負担となっている。そこで、日米両政府は、普天間基地移設に合意した。 米軍基地設置の根拠法となる駐留軍特別措置法では、どこに米軍基地を造るかの判断を、内閣にほぼ丸投げする内容になっている。そこで、2005年民主党政権下、鳩山内閣は、沖縄県名護市辺野古への基地移設を閣議決定した。自民党政権下の安倍内閣もそれを引き継ぎ、現在、工事を進めようとしている。 そんな中、4月8日の参院予算委員会で、松田公太議員(日本を元気にする会代表)が、安倍晋三首相に対し、次のような質問をした。 普天間基地の移設先をどこにするかは、「国政の重要事項」なのだから、「全国民の代表」(憲法43条)からなる「国権の最高機関」(憲法41条)たる国会が、辺野古基地設置法のような法律を制定して決めるべき事柄ではないか。また、辺野古基地設置法を成立させるためには、憲法95条に基づく名護市の住民投票(※)が必要になるはずだ。この手続きを踏むつもりはないのか。 これに対し、安倍首相は、移設先は「国政の重要事項」ではあるが、「行政の責任」として内閣が決すべき事柄だから、今ある法律で根拠としては十分だ、と答弁した。
この答弁の際に、菅官房長官が使わないと約束していた「粛々」という言葉を安倍首相が使ったため、大手メディアの関心はそちらに向かってしまった。しかし、この質問と答弁の重要さは、松田議員と安倍首相がそれぞれに、「あるべき憲法」を提案していることにこそある。 つまり、松田議員は、憲法41条、43条、95条を手がかりに、「基地の場所のような国政の重要事項は、国会の議決と住民投票の同意によって決定する憲法」の方が魅力的ではないか、という提案を示した。 これに対し、安倍首相は、「基地の場所のような国政の重要事項についても、法的根拠としては駐留軍特別措置法で十分であり、一内閣が責任を引き受けて決定する憲法」の方が魅力的である、と反論したのだ。 この原稿を読んでいる読者は、どちらの憲法のほうが魅力的だと感じるだろうか。 「松田議員の憲法」では、国会議員や住民の同意を取り付けるための苦労が必要となるが、その過程で、多くの人が決定に参加でき、地元の納得も得られやすくなるだろう。他方、「安倍首相の憲法」では、迅速な決定が可能となる半面、参加や納得という面で不十分になるだろう。