男性がチュチュで踊る、アバンギャルドなバレエ公演 衣装デザインは幾左田千佳
挑戦的なクリエイションにかける思い
ゲネプロ公演では井上と堀内が登壇し、同企画のコンセプトや各プログラムの解説を行った。また公演後の囲み取材では、デザイナーの幾左田やキャストである中村祥子、鈴木絵美里 (イングリッシュ・ナショナル・バレエ ソリスト)も、今回の斬新なクリエイションに対する思いを明かした。 ――男性がビスチェやチュチュを着たりと、意外性のある衣装でした。 井上:今回は全体的に男女の性別を問わず、今の時代の自由な解釈で衣装を作りたいという思いがありました。「通常なかなか見ない衣装を作ってみたい」というところから、アイデアが生まれたんです。 堀内:前回はクラシックバレエの枠組みから出きれない部分が多かったので、今回はもうコンセプトから変えちゃおう、と。男性が女性の役を踊ったり、男性同士の「ロミオ」を提案したり、「海賊」にも「現代の悪って何だろう?」という新しい解釈を与えています。上辺だけじゃなく、根底の部分でも挑戦できたかなと思います。 幾左田:キャラクターに新しい解釈を加え、ストーリーをイメージした上で楽しく作らせていただきました。あとは今回初めてスタイリストさんに入っていただいて、私の知る限り、通常のバレエ公演でスタイリストが入るのは初めての試みではないかと思います。ファッションのエッセンスが衣装に取り入れられることによって、より磨きがかかったのではないかなと手応えを感じています。 ――アップサイクルの衣装はどのように作られたのでしょう。 幾左田:今回は、公募で集まった衣装をはじめ、ショーピースや日常着のアーカイヴサンプル、制作の段階で生まれるトワル、生地屋さんのデッドストック、チカ キサダの残布など、全てにおいてゼロからではなく、集めたもので衣装を作りました。新しい解釈で再構築するような形です。 堀内:僕が「ショパン組曲」で着用した衣装は全部、僕が小さい頃に着ていた衣装でできているんです。10歳からバレエを始めて、うちの母が作ってくれた衣装がダンボール2箱分ありました。それを全部解体して、他のダンサーの衣装にも組み込んでくれたりと、チカさんの思いがこもった衣装です。 井上:公募によって、お子さんが発表会のときに着た衣装などがたくさん集まりました。そこに付いていた「アリサちゃん」といったネームタグも全部見えるようにチカさんがデザインしてくださって。また、衣装を裏返したときに見える職人さんのこだわりや美意識に着目して、あえてスパンコールの玉留めを表に出して見えるようにしたり、新しい美の発見をしてくださったなと思っています。 ――キャストの皆さんは実際に着てみていかがでしたか? 中村:ふだんの舞台では着られない、チカさんならではの衣装。いろいろなところにこだわりが込められているので、着る側もこれまでとは少し違った感情や思いが出せる衣装だなと思っています。 鈴木:昔使われた衣装をアップサイクルして使っているので、「伝統や想いを受け継ぐ」という感情が体にしみていく感じがしました。 ――BTNCの挑戦はバレエ界に大きなインパクトを与えそうですね。 中村:代々受け継いできたクラシックの演目は今までの経験もあってスッと入りやすいですが、こういう新しい作品は本当に一から作り上げるもの。みんなヒントを与え合ったりしながら作り上げていくので、やはりいつもとは違う世界観が生まれるのではないかと思います。子供たちにとっても、バレエの世界がもっと広がるんじゃないかな。 鈴木:ダンサーそれぞれの個性や演技力、クリエイティビティからインスピレーションを受けています。私たちも次どういうものが生まれてくるのか、すごく楽しみです。予想ができないところが楽しいですね。 堀内:このプロジェクトはゼロからのスタートで、すごく挑戦的で学びの場になっていますね。バレエは「バレエを好きな人以外のもの」でもあって、「総合芸術」とはそういう意味でもあると思います。例えばスポーツを好きな人が見に来たら「ダンサーってすごいね、あんな体をしているんだね」、ファッションの人が見に来たら「かわいい衣装だね、ヘアメイクさんすごかったね」など感想を言ってもらえるので、肩肘張らずにみなさんに楽しんでもらえたらうれしいです。 (聞き手:辻 富由子)