雪崩に限らない「安全だろう登山」遭難の危険性
雪崩に遭ってしまったら
雪崩に遭った際、登山者はどうしたらいいのか。よく言われる「雪に埋まっても口元で空気を確保する空間を作ったら助かるのでは」との見方について、実際に訓練で雪崩遭難の状況をつくってみたことがある丸山さんは、肯定的ではありません。「救助隊員に雪中に全身埋まってもらって確かめたところ、隊員は雪の圧力で手足を少しも動かすことができなかった。よほど偶然の状態がないと自由に手足を動かして対応することは難しい」。 では、雪に埋まった状態でどのくらい生存できるのか。「実際に体験してもらった状況から、おそらく雪に埋まって30分ほどで死亡するのではないかというのが当時の判断でした」と推察します。 人体に対する雪の重圧は予想以上。丸山さん自身、雪山の登山中に上の方から雪がサラサラと落ちてくるチリ(塵)雪崩に遭い、「足が半分ほど埋まっただけで、どうあがいても身動きが取れなくなったことがある」と振り返りました。
雪崩事故以外でも重要な状況判断
雪崩事故に限らず、状況判断が大きな事故につながるのは他の遭難でも同様。例えば2006年の10月に白馬岳でツアー客4人が死亡した遭難。コースは富山県黒部市から欅(けやき)平、不帰岳(かえらずだけ)、清水岳(しょうずだけ)、白馬岳頂上宿舎(2850メートル)、白馬岳、白馬以北縦走、日本海(親不知)の5泊6日で、ガイドなどを除く登山客は平均60代。コースの標高差は1950メートルという本格的なスケジュールでした。 初日の午前5時に出発して、その日のうちに標高差2000メートル近い白馬岳近くの小屋を目指しましたが、朝からの小雨がみぞれになり、目的の小屋近くで凍死者を出しました。 丸山さんによると中高年は平均的に1時間で標高差250メートルを登ります。この計画だとこの日1日の日程の標高差が1950メートルなので休憩なしで歩いて8時間のコース。休憩を入れれば10時間近く歩くコースです。そこへ雨やみぞれの悪天候が加わって遭難しました。 途中の不帰岳には避難小屋があったので「そこに避難していれば遭難は避けられたかもしれないが、悪天候の中、白馬へ向かってしまった」と判断の誤りがあったと見ます。さらに中高年の登山客を同行してのハードな日程は、計画段階で遭難のおそれがある「典型的な“入山前遭難”と言っていい」と丸山さん。このケースでは同行したプロでもある山岳ガイドの責任が問われました。