雪崩に限らない「安全だろう登山」遭難の危険性
栃木県那須町で登山講習中の高校生ら8人が死亡した雪崩事故はなぜ防げなかったのか。山岳関係者らは栃木県警の捜査を見守りながら、あらためて山岳や雪との向き合い方を検証しています。アルプスを抱える長野県で長年、遭難防止の指導に当たってきた登山家の丸山晴弘さん(長野市)は、「気象情報などで引っかかることがあったらとにかく“行かない”“やめる”に尽きる」と強調。車の「だろう運転」に似た、楽観的な判断に引きずられての遭難は雪崩事故に限らないと警鐘を鳴らしています。 【写真】多発する冬山遭難 遭難は「出発前」の自宅から始まっている?
どこでどんな降り方をしていたか
栃木県北部には3月26日からの降雪で雪崩注意報が出ており、事故当日の27日午前中までに30センチ以上の積雪がありました。丸山さんは「南岸低気圧の影響も指摘されており、重くて大量の積雪があった。雪崩が発生するのは分かっている。そういう時は山に行かないものです」。 栃木県高体連の登山講習会の責任者の「雪崩の危険を知って、登山からラッセル訓練に変更したが、尾根筋なので当時は絶対安全と判断した」との説明について丸山さんは首をひねります。ラッセルとは雪の中をかき分けて道を作りながら進むことで、雪山登山には必須の技術。「雪崩の事故防止で一番気を付けることは降雪直後の様子。どこの地域でどんな降り方をしたかが問題です。それによって雪の状態がどうなっているか、雪崩が起きやすい状態かどうか重要な判断をし、行事を実行するかどうか決めることになる」とし、そうした具体的で詳細な状況分析があったかどうかを問いかけます。 さらにラッセル講習会で、山の斜面を登りながらビーコン(小型の無線機)などの遭難対策の機材がなかったことも「問題外」。「ビーコンがあれば万全というわけではないが、ビーコンの配備で以前に比べ遭難時の生存率が上がったのは確かなのだから」と言います。事故当時の指導者らの対応の是非は今後の捜査に委ねられます。
低気圧接近は発生に強く影響
「今回の事故のように南岸低気圧の接近など気象の変化や地形などが雪崩の発生に強く影響する」と話す丸山さんは、雪崩の発生要因について「自然発生」と「誘発発生」に分けられ、自然発生では(1)横なぐりの風、(2)多量の降水、(3)気温の上昇、を挙げます。 風の影響では、雪の斜面の横から平行に吹く風、尾根上の雪庇(せっぴ)の下の斜面の風、風上の斜面の順に危険。雨の関連では、積もり方が速い「ドカ雪」にみぞれ、大雨で発生しやすい。気温は高くなるほど危険。 登山者やスキーヤーらによる誘発発生では、「急傾斜」が危険。斜度60度以上だと雪が舞って来るスノーシャワー型の雪崩が頻発するが、危険度は低い。問題は斜度30~60度の斜面で、「ここをスキーで横切ったりすると大きな雪崩を誘発することがある」。また、丈の高いササや草、樹高2~3メートルの低木が雪の下に伏せた状態であると積雪の移動を促す、としています。