『虎に翼』寅子に学ぶ“不条理”との向き合い方 優未「困ってる子を助けるのは普通」に感動
『虎に翼』(NHK総合)第88話では、寅子(伊藤沙莉)が放火事件の新たな証拠品に対する違和感と向き合う。 【写真】手紙に“誤訳”を見つけた香子(ハ・ヨンス)たち 放火事件の新たな証拠品は、被告人が弟に宛てた手紙だ。その中には「私が中を完全に燃やしてしまったせいで」という一文が含まれていた。判事補の入倉(岡部ひろき)は「バカですね、あんな手紙送るなんて」と呆れ気味だが、寅子は文章の不自然さや、わざわざあんな手紙を送るだろうかと違和感を覚える。優未(竹澤咲子)のお弁当を用意している時も、支部長室にいる時も頭はあの一文でいっぱいだ。寅子を演じる伊藤の、何をしてもモヤモヤが晴れないといった表情が心に残る。 これまでさまざまな世の不条理に対峙する度に「はて?」の声をあげてきた寅子だが、その「はて?」の真骨頂とも呼べそうな、違和感への向き合い方。執念にも似たその向き合い方からは、寅子の困っている人を助けたいという強い気持ちがひしひしと伝わってくる。 寅子が意思を曲げることなく、放火事件に向き合えるのは、航一(岡田将生)がかけた言葉が、寅子の姿勢を肯定するものだったからともいえる。「どうしても被告人側、差別を受けている方たちに気持ちが寄ってしまいます」と話す寅子に航一はこう言っていた。 「全ての事件に公平でいるなんて無理ですよ」 「もちろん感情が法を超えてはいけません」 「でも裁判官だって人間で、揺れ動くのは当然だ。先人たちはそれも分かっているから合議制を作ったのでは?」 超えてはならない一線はあるが、心が揺れ動くことはある。航一は、困っている人を助けたいという寅子らしい信念で事件と向き合ってもいいと伝えたかったのではないだろうか。 モヤモヤをそのままにしておけない寅子は行動を起こす。そして、そんな寅子の思いはさまざまな人の心を動かした。
被告人の手紙に“誤訳”を見つけた香子(ハ・ヨンス)
寅子は傍聴席に座っていた小野(堺小春)に、そして悩んだ末に崔香淑/汐見香子(ハ・ヨンス)にも協力を仰ぐ。小野は朝鮮の言葉で「火をつける」「燃やす」をどう書くかを教えてくれた。香子はその言葉の上に「中」を表す言葉がつくことで「気を揉ませる」「心を苦しめる」といった慣用句になると教えてくれた。小野も香子も、戦争後も続く差別や偏見の目に晒され、苦しい思いをしてきたはずだが、それでも寅子の申し出を引き受けるのは、先述した寅子の信念が彼女たちに伝わっているからに他ならない。第88話は、小野が寅子の自宅を訪れての幕引きとなったが、小野は寅子にだからこそ何かを打ち明けるのかもしれない。 第88話は深刻な顔でいることが多かった寅子だが、優未と過ごす場面では笑顔が多く、観ていてほっとする。寅子にとって、優未との時間はほっと一息つける時になっているようで、少しずつ2人の溝が埋まっているのだなと実感できる。 また優未の言葉は、寅子が香子に協力を仰ぐきっかけにもなっている。優未は山登りの日に起きた出来事について「困ってる子を助けるのは普通のことでしょ」と言った。この時、伊藤が見せた目尻の下がった微笑みには、優未が考える「普通」への感心や安堵のみならず、優未の言葉に励まされた寅子の心情も伝わってきた。
片山香帆