「『甲子園のためにすべて右ならえ』は世知辛い。野球を楽しむためのリーグがあっていい」――元慶應高監督・上田誠さん【新連載『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.2】
2023年8月。上田誠さんが1991年から2015年まで25年間指揮を執った慶應義塾高校が、甲子園で初優勝を果たした。その慶應義塾の強さの基盤を作った指揮官の一人・上田さんのインタビューを2回にわたりお届けする。 【動画】慶應義塾、仙台育英など24年の高校野球をリードするのは?
地域ごとに全カテゴリが交わった話し合いの場をつくる
上田誠さんは、昨今、サッカーや卓球、バスケットボールの人気が高まる中、野球の競技人口が減っていることにも警鐘を鳴らす。 「この問題については、とにかくみんなで話し合うことが大事だと思います。全国一斉に何か進めるのではなくて、地域ごとにどうしようかと話し合うこと。県や市ごとでも、大学・高校・中学・小学校が一緒になってイベントをやるとか、保育園や幼稚園とも交わるとか。そんなことでいいんです。サッカー界を改革した川渕三郎さんのように、野球界でもリーダーシップを取れる人が出てきて、『みんなでやりましょう!』と言ってくれれば、それはとても助かりますけど(笑)イチローさんや松井秀喜さんなんかが言いだしっぺになってくれると良いですけどね。でもまずは、とにかく地域ごとにみんなで話し合って、子どもたちが野球をやれる環境をつくってあげることが、ぼくたちの使命だと感じています。」 上田さんは慶應義塾高校の監督を退任後、神奈川県で学童野球のセミナーを精力的に開催するなど、少年野球の指導者たちへの啓蒙活動を行ってきた。また全日本野球協会(BFJ)の団体間連携推進部会の委員として活動もしているが、中々事態は前に進んでいかないという。 「少年野球から社会人までそれぞれに連盟があって、そこを連携していきたいのですが、みんなで一緒にやるという段階にはまだ至らないのが現状です。前例通り進んで、今までのことをそのまま続けているだけで何も変わっていかないんですよね。突飛な人が出てきて、こういうことをやるぞ!と引っ張っていけるといいのですが。ただ、希望はあります。高野連の場合は、日本各地で組織化されているので、各都道府県で“野球振興係”という部署を設けてもいいですよね。 それは、高校の先生たちが中心になると思いますが、中学&高校でユニットを作って、年に何回か野球遊びするとか、各県のアイディアで好きにやれば面白くなると思います。そこに、高野連が費用を負担してあげたり、近くに大学や社会人チームがあればその選手たちも参加したり。だけど最近では、地域で地元に根差した野球振興をやらなければいけないのに、『もうやってますよ』みたいな感じになってしまっている面がある。 神奈川県でも子ども向けのイベントをやってますけど、年に1回だけやっていても野球人口って増えないでしょう。それに、企業が中心になって独自に野球教室や大会を開催していますけど、それが逆に子どもの体や肩の負担につながっていたりします。企業単独ではなくて、学童も中学も高校も大学も社会人も、みんなで一緒にやることで面白くなるとぼくは思いますね。」