『虎に翼』は主婦の描き方も秀逸だった 総集編で再確認したい花江×梅子×百合の生き様
家制度からの脱却・梅子
寅子の明律大学女子法科同期生のひとり・大庭(のちに竹原)梅子(平岩紙)。最後まで残った女子メンバーの中ではもっとも年長で夫は弁護士、3人の子の母親でもある。 外に愛人を囲い、自らを家政婦として扱うような夫と離婚し、三男の親権を取るために弁護士への道を志した梅子であったが、高等試験は受けられず、病に冒された夫の看病を約10年続けた。夫の死後、遺産相続の場で夫の愛人と心のよりどころであった三男の交際を知った彼女はすべての相続を放棄し、「ごきげんよう!」との高らかな宣言を残して大庭の家を出る。 学生時代、何かとアツくなりがちな寅子やよねといった年下の同期生たちの中でどこかおっとりした風情を構え、よく手作りのおにぎりを振舞う梅子だったが、優しいだけでなく、同時に芯の強さも宿していた。 ケア要員としてでしか自らの存在が認められないと心の底から自覚した瞬間、魂の自由を得るため梅子は呪いの家から脱出した。最終的には和菓子の修行を経て同期生たちのたまり場・甘味処の竹もとを継ぎ、店をリスタートまでさせる。 若いメンバーの中に年上の主婦が入ると、ストーリーの進行上、お母さん・お姉さん的役割のみを背負わされたり、都合の良いフォロー(おばさん)要員として描かれることも多いが、『虎に翼』の梅子は自立に向かい諦めずに歩み続ける人であった。また「妻は家に従い耐えて当然」との当時の価値観を、華麗にうっちゃってくれた存在でもある。
家族の一員としての幸福を求めた百合
寅子の事実婚相手、星航一(岡田将生)の継母・百合(余貴美子)。最初の結婚相手との間に子どもができなかったことから婚家を追い出され、航一の父・朋彦(平田満)と再婚して、長きにわたり血縁のない子どもや孫たちの面倒をみてきた。 彼女にとって自身の存在意義は「家族の世話を完璧にやり遂げること」で、星家に同居する運びとなった寅子や優未(毎田暖乃)にも柔軟に接し、一時は寅子の部下の子どもを預かろうと提案する。 航一や孫たちと血の繋がりがないからこそ、完ぺきな家族であろうと家の中のことを120%の力でこなしていた百合。寅子の部下の子どもをベビーシッターとして預かる提案をした彼女は「初めて自分のために使えるお給金が出たら皆さんに鰻をご馳走するわ」と語る。外で働く人たちから財布を預かるのではなく、自身の労働の対価で家族に鰻をご馳走したいと話す笑顔は前向きだ。その後、百合は認知症を発症し、約6年後にこの世を去った。 家の大黒柱であり、親友でもある寅子を専業主婦として支えた花江、夫や姑、長男から見下され続け、人生の後半に大きな選択をした梅子、家族の世話をすることこそが自らの幸福であると信じ、人生の幕を閉じた百合。3人とも寅子やよねのように社会という大舞台で戦うことはなかったが、確かにあの激動の時代を生きた女性たちだ。 『虎に翼』では女性の社会進出の厳しさとその泥臭くも輝かしい道のりに加え、表舞台を裏から支える女性たちの姿もしっかり描かれた。このことを胸にもう1度彼女たちと向き合いたいと思う。
上村由紀子