田中圭が元気をくれる理由「“ポジティブ人造人間”になろうと決めたんです」
再会で感じた、高橋文哉の可能性
丸子役の高橋文哉とは、ドラマ『先生を消す方程式。』以来の共演となる。日頃から「受けの演技」に定評のある田中が、本作では次々と仕掛ることで笑いを生み出していく。 「どちらもできないことはないですが、確かに仕掛けるほうが得意ではないかもしれない。ただ、文哉くんとのやりとりに関して言えば、仕掛けるのは荒川からで、それに対して丸子がリアクションをするので、今度は僕が受ける側に回る。丸子と荒川の会話を素直にやっていたら、今回のようなお芝居になりました」 久々となった高橋との芝居。歳月を経て実感したのは、芝居への愛だった。 「あの頃以上に文哉くんがお芝居を好きになったんだなということを感じました。それがすごくうれしかったです。なので、僕としてはなるべく彼がやりやすいように。丸子が素直なリアクションをとれるような荒川でいたい、と考えていました」 田中にとっては、ひとまわり以上年の離れた後輩となる。その後輩が、主演として作品に向き合うさまは感慨深くもあり、同時に頼もしくもあった。 「監督が一発OKをあまり出さないタイプの方なので、主演の文哉くんは何度もテイクを重ねていると思うんです。それなのに文哉くんはまったく心が折れていなかった。何ならテイクを重ねるたびに『次はこうしよう』と楽しんでいました。僕だったら絶対『え~!』と弱音を吐いていたと思います(笑)」 そうわざと自分を落としながら、後輩にまっすぐなリスペクトを贈る。 「正直、これだけ人気者になったら、もう少し生意気になっていてほしかったのですが(笑)。文哉くんはお芝居に対して一生懸命でピュアなままでした。その姿を見てうれしかったし、これから先さらにとんでもない俳優になるのではないかと可能性を感じました」
ポジティブの秘訣は、“ポジティブモンスター”を周りに置くこと
丸子にとって荒川は面倒くさいところはあるけれど、良き先輩だ。田中圭もまたいわゆる“兄貴力”の強い人と言えるだろう。気さくで親しみやすく、面倒見が良い。その人柄を慕う後輩たちのエピソードを語りだすと枚挙にいとまがない。 「なんですかね。自分でもわからないです。ただ、基本的に年齢が上とか下はあんまり気にしないタイプではあります。年上の先輩に対しても普通に友人の感覚で接したり、関係性によってはあだ名で呼ぶこともあります。後輩に対しても、年下であることはわかっているけど、根っこの部分で尊敬できる人間としか付き合わないので、変に下に見るみたいなことはないです。人を年齢で見ていない、というのはあると思います。あれ?だったら後輩とご飯に行っても僕が毎回お金を出さなくてもいいかもしれないですね(笑)」 話が真面目な方向に行きそうになったら、そうやってオチをつけて茶化すところも、愛される所以だろう。今回の荒川の役づくりからもわかる通り、田中圭は場の空気を読む力に長けている。 「仕事以外の場でもつい周りの状況を見ちゃいます。たとえば、大勢で食事をしているときも、端っこでつまらなさそうにしている人がいたら、ものすごく気になります。僕から話題を振って、会話に入ってもらった方がいいのかなとか、いろいろ考えてしまうんです」 天性の気遣い屋。冒頭で紹介した明るい挨拶も、本人は「ただの癖です」と謙遜するが、一緒に働く人たちにできる限り気持ちよく仕事をしてもらいたい、という彼なりの気配りであることが感じられる。 ただ、そんなパブリックイメージを覆すように、田中圭は自らのことをこう分析しはじめた。 「こういう自分の性格も強制的にしていったというか。自分から“ポジティブ人造人間”になろうと決めてつくり上げていったところはあると思います」 それは、意外な告白だった。だって、テレビで見る田中圭はいつも目元を綻ばせ、冗談を言っては人を笑わせる太陽みたいな人だったから。 「生きていればネガティブになることもやっぱりあります。それこそ妬み嫉み的なマイナスなものに自分も引っ張られることもありました。それで、すごく後悔をしたり。そういう経験をいっぱいしてきて、ふと気がついたんです。ある一つの物事に対し、10人いれば10通りの見方が生まれるのは当たり前のこと。じゃあその中で誰が最強かと言ったら、ポジティブに捉えられる人が圧倒的に強いと。そこからポジティブな人に対する憧れで、自分も“ポジティブ人造人間”になろうとトレーニングを始めました」 卑屈さやこじらせといったネガティブ要素が魅力になるのは、若い頃だけ。何かに打ち込むにしても、嫉妬や反骨心だけを原動力にしていると、いずれガソリンが尽きてくる。最終的に愛されるのは、やっぱり素直で明るい人であり、健やかでハッピーなパワーが自分も周りも幸せにしていく。 そうわかってはいるものの、簡単にポジティブになれないのが人間というもの。田中圭はどうやって“ポジティブ人造人間”化に成功したのだろうか。 「まずは無責任なくらいポジティブなことを言ってくる人を見つけること。これが大事だと思います。やっぱり自分と同じ考え方をしている人と一緒にいると、結局いつもの自分の思考パターンに落ちていってしまう。なので、『そんな考え方があるんだ?』と驚くくらい、自分とは正反対の人間といるだけで、自分の性格も変わってくると思います」 田中圭曰く、それが“ポジティブモンスター”。そんな“ポジティブモンスター”の洗礼を受けて、田中自身もどんどん前向きになっていった。 「何かあったら、ポジティブな人に相談しに行くんです。『聞いてよ』といろいろ悩みごとを吐いて解決策を求めたりするのですが、結局『しょうがないから元気出せ』みたいなことしか言わない(笑)。一緒に悲しんでさえくれないです。でも、それでいいんですよ。なんにも解決はしていないのに、そうやって『もう過ぎたことなんだから』と言われると気持ちが楽になります」 傷を舐め合われても、余計に沈んでいくだけ。豪快に笑い飛ばしてもらうことで、くよくよ悩んでいたことが小さく思えてくる。 「心が落ちていくことは誰にでもあるし、それは避けられない。だからこそ、簡単に解決はできないけど、どんなマイナスなことも気の持ちようだと思うことで少しでも心の負担を軽くする。そうやって悩みをポジティブに変換する方法を、この18年くらいずっと続けています」 田中圭の明るさは自然由来のもではない。彼が努力と工夫をして勝ち取ってきたものだ。その明るさが決して押しつけがましくないのは、ネガティブになる気持ちもポジティブになる難しさも、彼自身がよくわかっているからなのかもしれない。