【メモの取り方】なぜ、頭のいい人は具体例がすぐに出てくるのか……?
「メモを取りましょう」 多くの人が言われたことのある言葉だろう。2023年と2024年のビジネス書年間ランキングで2年連続1位を獲得した『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者でコンサルタントの安達裕哉氏と、今話題の新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)と『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書)の著者であり文芸評論家である三宅香帆氏が、メモの取り方について語り合った。コンサルタントと文芸評論家のいう、「頭のいい人たち」のメモの取り方とはどのようなものだろうか。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部) ● 文芸評論家とコンサルタントの「メモを取る技術」 安達裕哉氏(以下、安達) 三宅さんは著書の『「好き」を言語化する技術』でメモの取り方について触れていらっしゃいますが、メモの活用はよくされるんですか? 三宅香帆氏(以下、三宅) そうですね。本の中で覚えておきたいところがあれば、紙の本の場合は自分のメモ帳に、何の本の何ページに何が書いてあるかを記載しています。電子書籍であれば重要な部分だけコピー&ペーストして、その本のところにメモしています。 安達 実は、コンサルティング会社でも、最初に上司からメモの取り方を教わるんですよ。「自分が大事だと思うところだけではなく、一言一句全部書きなさい。今のあなたにはまだどこが大事か判断できないから」と。それなら録音で良さそうですが、「録音だと覚えないからだめ。メモを取って、自分がお客様に説明する際に、そのメモをなぞるようにやりなさい」と言われました。 三宅 型を覚えるようなことでしょうか。 安達 まさに最初は「型通りにやれ」なんですね。その型を覚えるためにメモを取る。 三宅 おお、メモを取るにも技術が必要なんですね。 ● 頭のいい人はなぜ具体例が出てくるのか? 三宅 安達さんの『頭のいい人が話す前に考えていること』の大きな魅力の一つが、事例が多様で面白いところだと感じています。これまで、コンサルタントのような“頭のいい人”が書く本は事例がわかりづらいと感じることが多かったのですが、この本の例はすごくわかりやすかったです。夫婦喧嘩や会社の上司とのちょっとしたいざこざなど、具体的なエピソードは、どのように出しているのですか? 安達 頭がいい方々は抽象的に捉えることが上手いので、「理論がどうだ」という話になりがちなんです。だから、わかりづらく感じるのかもしれませんね。一方、私は体験して腹落ちするタイプ。だから、体験したことをもとに書こうと思って執筆したのがこの本です。前述のように、コンサルティング会社では全部メモを取るので、お客様や社内での会話も書き留めていますから。でも、例を出すときに仕事の話になりがちだったので、編集者さんには「仕事の話ばかりで面白くないから、プライベートをもっと書いてください」と何度も言われました(笑)。 三宅 それは面白いですね! 具体例を出すのって結構難しくて。私は大学で講師もしているのですが、就職活動中の大学生に「もう少し具体的なエピソードを語ったほうがいい」とアドバイスをしても「どうやって具体例を思いついたらいいかわかりません」と言われることが多いんです。 安達 1度自分の体験を紙に落として、その後再現してみるといいですよ。仕事でも、注意されたことをメモにとっても忘れてしまうのと同じ。指摘されてメモを確認して、というのを繰り返してやっと定着します。だから、「この話を誰かにするかもしれない」といつも考えておく必要があると思います。 三宅 「ネタになるかもしれない」という考えをいつも心に持っておくんですね。 安達 それを実践し続けると、非常にリアリティのあるエピソードを話せるようになります。私の本に、飛行機に乗る間際に妻から電話がかかってきて、いつもなら30分かかる話を「ヒアリングをして会話を整理する技術」を使って15分で終わらせた例を載せています。この話は、飛行機の中で改めて思い出して「あれは面白かったな」と思っていました。だから、編集さんから「整理に関するエピソードはないですか?」と聞かれた時に出せたんですよ。 三宅 あれはいいエピソードでしたね! ● 階層化したメモで頭の中を整理する 安達 三宅さんは、どんなツールでメモを取っているのですか? 三宅 私は「ダイナリスト」というアプリを使っています。箇条書きができて、さらに階層に分けることができるタイプのメモアプリです。私は本を書く前に目次を作らないと書き始められなくて。だから、目次を考える際には、スマートフォンとパソコンどちらからでもそのメモを見られるようにしています。 安達 階層化できるという点が、三宅さんにとって重要なポイントなのでしょうか? 三宅 そうですね、本の目次を考えるときは、一番大きな問いを分解していくイメージなんです。単純に読んでいて面白い順番よりも、どの順で説明したら一番すんなり頭に入るかを大事にしていまして。 たとえば、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』であれば、タイトルが一番大きな問いで、それに対して「90年代に大きな変化があった」ということを書こうと思ったので章として立てます。その章の目次として「自己啓発書の話」と「読書とはノイズである」という項目を書き出す。そして、その下の階層でそれぞれ具体的にどういった本を選んで説明していくかなどを書いていく。このように抽象と具体を分けて書きたいので、階層化できることは重要だと感じています。 安達 抽象と具体を行き来することで、考えがまとめやすくなっているのでしょうか? 三宅 そうですね。私が書く感想文のような種類のものは、作品の話をしたいのか、作品の背景となる社会の話をしたいのかが混ざりがちなんです。だから、「この話をしたいからこの作品を持ってくる」と、抽象と具体を分けて階層化したほうが頭を整理しやすいですね。 ● 階層化したメモで頭の中を整理する 安達 文芸などを読んで、言いたいことが上手くまとまらないとき、三宅さんはメモを使いながらどのような試行錯誤をされていますか? 三宅 うまく言語化できないときは、何かと比較をして違いを探すことが多いですね。たとえば、私は漫画の『SLAM DUNK(スラムダンク)』が大好き。映画化されたものもすごく良かったのですが、映画の主人公は桜木花道ではなく、宮城リョータでした。だから、「なんで今、井上雄彦先生はリョータの話をしようと思ったんだろう」とモヤモヤと考えていました。そういったときに、同じ作品内のキャラ同士で比較したり、連想する他の漫画と比べてみたりすると答えが出やすいように思います。 安達 作品の中身だけ見ていてもそれ以上飛躍しないから、1回作品を飛び出て、その背景や作者の思いなどの一段上にあるメタ情報にアクセスする感じでしょうか? 三宅 そうかもしれません。先ほどの『SLAM DUNK』だと、1990年代は桜木花道のようなヤンキー上がりの「ケガをしても全力でぶつかっていくぜ!」というキャラが主人公になるべき時代だったけれど、2023年は少し違う。例えば、家庭が複雑で、1回挫折も経験したけれど頑張りたい人の方が今っぽい気がする……みたいな感じです。社会背景にズームアウトした方がわかることも多い気がします。 安達 それはたとえば、会社で人間関係が少しモヤモヤする場合、「今の会社の状況はどうかな」「部長も人間関係がうまくいっていないからこちらにキツく当たるのかな」などと少し引いて見てみると言語化しやすい、考えがまとまりやすいという感じでしょうか? 三宅 そうですね。あとは友人の話も聞いてみて、「うちの会社と何が違うんだ?」と、外のものと比較するのも大事かもしれません。 安達 なるほど。これも階層化ですね。 三宅 そうですね。確かに階層化して考えていますね! 言語化していただいてありがとうございます。 安達 三宅さんの物事を階層化して整理して捉え直すというメモの取り方、とても面白いと思いました。階層化の必要性がよくわかりました。ありがとうございました。 (本稿は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏の対談記事です) 安達裕哉(あだち・ゆうや) Books&Apps運営、企業コンサルティング Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。著書に、2024年と2023年のベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となった『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)など。 三宅香帆(みやけ・かほ) 1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。 著作に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』、『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』、『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』、『人生を狂わす名著50』など多数。
安達裕哉/三宅香帆