東京五輪1年延期でサッカー五輪代表はどうなる?!特例での規約変更なければ年齢制限で8人以上が出場資格失う
年齢制限が現状で変わらなければ、1997年生まれの選手たちは自国開催のヒノキ舞台に立つ資格を自動的に失う。疫病の蔓延に伴う延期という五輪史上で初めての事態を踏まえて、特例で24歳以下に変更されるのかどうか。延期決定を見すえて、サッカー界ではすでに具体的な動きが起こっている。 1月にタイで開催された、東京五輪のアジア最終予選を兼ねたAFC・U-23選手権で3位に入り、出場権を獲得しているU-23オーストラリア代表のグラハム・アーノルド監督は、大会が延期された場合には年齢制限を24歳以下とすることを求めたと同国の複数のメディアが報じている。出場権の獲得に貢献した、1997年生まれの選手たちの思いに配慮した形だ。 現役時代にサンフレッチェ広島でプレーし、指導者としてベガルタ仙台を率いた経験をもつアーノルド監督は、東京五輪・パラリンピックの調整委員長を務める、IOCのジョン・ダウリング・コーツ副会長(オーストラリア・オリンピック委員会会長)とも話し合いの場をもったという。 ただ、年齢制限の設定はIOCと国際サッカー連盟(FIFA)の暗闘を抜きには語れない。プロ選手の全面参加を望むIOCに対して、ワールドカップの威厳を守りたいFIFAが対立。1988年のソウル五輪から23歳の年齢制限を設けようとしたFIFAの方針が、IOCの猛反対で立ち消えになった経緯がある。 最終的にはIOCが折れて、1992年のバルセロナ五輪から年齢制限が導入された。しかし、開催国スペインが優勝したにもかかわらず、男子サッカーの観客動員数は伸び悩んだ。スター選手の不在を嘆いたIOCが再びFIFAと折衝し、1996年のアトランタ大会からオーバーエイジ制度が導入された。
FIFAとしては五輪の男子サッカー競技を、U-17およびU-20両ワールドカップと並ぶ、年代別世界選手権大会の一環として再編して現在に至っている。日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長は、新型コロナウイルス感染が判明した直後の今月19日にJFAを通じて発表したコメントのなかで、FIFA理事を務めている立場も踏まえて、東京五輪の延期などを含めた措置にこう言及している。 「オリンピックのサッカーは23歳以下の大会であることから、技術的に難しい面があることも認めなければなりません」 実際に1年程度の延期が決まったいま、判断はFIFAに委ねられる形になる。アスリートファーストの観点に立てば、一生に一度あるかないかの機会を守るためにも、特例で24歳以下とする配慮が取られても反論は出ないだろう。しかし、もし現行通りの23歳以下をFIFAが遵守した場合は、開催国として臨む日本もチームの骨格をゼロベースから作り直す作業に着手せざるをえなくなる。 東京五輪世代となる選手たちを幅広く招集し、能力を見極めてきた森保監督だが、そうしたなかでも中山や板倉は代役の効かない存在となっている。スピードやドリブルという一芸に秀でた面を評価すれば、前田や相馬も指揮官が描く構想のなかに入っていたかもしれない。 年齢制限で選外となってしまう選手たちを、オーバーエイジで招集するべきだという意見が上がるかもしれない。その場合は最大3枠のオーバーエイジをめぐる論争が巻き起こる可能性もあるし、フル代表の選手たちをオーバーエイジで、と考えていた指揮官の構想にも影響を及ぼしてくる。 その森保監督は延期決定を受けて、JFAを通じてこんなコメントを発表している。 「人々の命と健康があってこそのオリンピックだと思っています。延期になったとしても、大会までの一回一回の活動に最善を尽くすことに変わりはありません。各活動を充実させて、東京オリンピック開催時によりパワーを持って臨めるよう、これまで積み重ねたものをさらに積み上げていきます。 世界中の人々に平穏で当たり前の日常生活が戻るよう、この状況が収束を迎えることを願っています。選手・スタッフをはじめ、開催準備のために多くの方がご尽力されてきたと思いますが、今後とも、粘り強く、大会成功に向けてともに頑張っていきましょう」(原文のまま) FIFAの意向が示されていない状況を考えれば、年齢制限を含めたチームの今後にも触れられない。ただ、対象となる1997年生まれの選手たちは、公式戦が長期の中断を強いられているなかで、東京五輪への不安も抱いているはずだ。JOCにとっては各論のひとつかもしれないが、JFAとしては選手たちの心情をくみ取る形で、FIFAに対して早急に意見を出す必要性が出てくるかもしれない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)