『モンスター』『虎に翼』『アンチヒーロー』 法律が重視され始めたリーガルドラマの現在地
佳境を迎えつつある『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系)。弁護士の神波亮子(趣里)が現代の闇に挑む本作は、エッジの効いた作風でリーガルドラマの現在地を示している。このコラムでは同ジャンルの現状を概観し、今後の展望を探ってみたい。 【写真】法廷に立つ神波亮子(趣里) 社会正義を貫き、事件の深層に鋭く斬り込む。巧みな弁舌と探偵顔負けのリサーチで、依頼人のために逆転勝訴を導く。弁護士、検事、裁判官を主人公とするリーガルドラマは、人気ジャンルとしてドラマ界の一角を占める。2024年はリーガルドラマの秀作が目白押しだった。朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)を筆頭に、4月期日曜劇場の『アンチヒーロー』(TBS系)、深夜枠の『JKと六法全書』(テレビ朝日系)など各局が意欲作を送り込んだ。 いわゆる「法廷もの」と呼ばれる作品はこれまでもあったが、それらと近年のリーガルドラマの大きな違いは、司法制度改革以降の変化が反映されていることだ。詳細はここでは省くが、裁判員裁判が開始され、法科大学院(ロースクール)の設置によって法律家を養成するプロセスが見直された。 この変化は作品の内容に影響を及ぼした。わかりやすいところでは、登場人物の経歴がある。新制度では、法科大学院修了もしくは予備試験合格者に司法試験の受験資格が与えられることになった。ドラマに登場する若手の弁護士や裁判官は、法科大学院卒か予備試験合格者と考えてほぼ間違いない。現実の世界では旧制度の合格者と新司法試験の合格者がいるが、作中でも新旧の合格者が混在する状況が生まれた。 ただし、これはあくまで外的な変化にすぎない。より重要で作品の成り立ちに関わる変化がある。一言で言えばそれは「法律ドラマの法律化」だ。従来の法廷ものは、ミステリー・サスペンスのサブジャンルの扱いだった。弁護士や裁判官は登場するが、難しい法律論は後回しにされ、犯人や被害者の動機にスポットライトが当たった。証拠探しに尺が費やされ、法廷シーンがクライマックスに来る構成だった。主人公の一代記も含めて、人情に訴えて、観る側の感情を揺さぶるものが主流だった。 司法制度改革がもたらした成果の一つに、司法へのアクセスがある。生涯、裁判所の門をくぐらない人も多い日本で、法テラスや裁判員裁判によって、司法はより身近なものとなった。法曹人口の増加は法律家の活動領域を拡大した。法科大学院で専門的な教育を受け、法律リテラシーを持つ人間が増加した。結果として起きたのは、送り手と受け手の変容だ。法的な素養が高まったことで、ドラマのクオリティも変化する。情に訴える構成から、争点整理と事実認定に重点がシフトした。敬遠されがちだった法律のロジックが物語の構成要素になったのである。