『モンスター』『虎に翼』『アンチヒーロー』 法律が重視され始めたリーガルドラマの現在地
リーガルドラマの制作サイドに法律家が増えた背景も
古いところで『ビギナー』(フジテレビ系)は司法修習を扱っており、修習生同士が法律論を戦わせる場面がある。同作が放送された2003年は、制度改革の議論がさかんに行われた時期だった。『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)は、そのものずばり法科大学院が舞台だ。当事者同士の裁判では、2022年7月期の『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)は請求と法律構成を示してエピソードに落とし込んでいた。『虎に翼』も劇中劇のフォーマットで法律上の争点を示した。『アンチヒーロー』は、検察の立証に合理的な疑いを差し挟む弁護側の戦術が作品の土台にあった。 法律論の密度が高まったのは、制作サイドに法律家が増えたことも関係がある。監修だけでなく、近年、原作者や脚本家自身が資格保有者という事例が見られる。『JKと六法全書』で共同脚本を担当した柏谷周希氏、『元彼の遺言状』(フジテレビ系)、『競争の番人』(フジテレビ系)の原作者・新川帆立氏も弁護士だ。作家業を兼ねる弁護士は増えているので、この傾向は加速するだろう。 法的な視点から問題の本質を見極め、物語を通して観る者の心のひだに触れる。法律を扱った作品の隆盛ぶりは、広義のリーガルドラマで顕著だ。主人公は弁護士や裁判官ではないが、司法と密接に関連した役割を担う。『シッコウ!!~犬と私と執行官~』(テレビ朝日系)は執行官、『競争の番人』は公正取引委員会の審査官が主人公だ。『ジャンヌの裁き』(テレビ東京系)は、一般市民から選ばれた審査員で構成される検察審査会が舞台となった。 人物設定、作品構造、作り手、視聴者、テーマの各段階でアップデートされたのが現在のリーガルドラマである。もう一点、2020年代のドラマの問題意識として、同時代性と社会へのインパクトを挙げたい。2024年9月、殺人容疑で死刑判決を受けた袴田巌氏が再審無罪となり、翌月確定した。冤罪を扱ったドラマは増加傾向にある。『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)がそうであるし、『アンチヒーロー』は冤罪を正面から取り上げた。 国外の動きに目を向けると、韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、自閉症スペクトラムの弁護士が主人公。ダイバーシティを扱った同作は、法律論と人間ドラマの深みを備えていた。『モンスター』では裁判をゲーム感覚でとらえる主人公が、AIや推し活、闇バイトに挑む。法律を駆使しながら法律で解決できない心の闇に斬り込む本作は、ドラマでしか描けない領域に手を伸ばしている。その先にリーガルドラマの未来があると言ったら大げさだろうか。
石河コウヘイ