史上最強とも評された栗毛の怪物オルフェーヴル「現役時代と変わらない気高さと美しさ」【もうひとつの引退馬伝説】
人を観察して順位づけする
2011年にクラシック三冠を制し、翌年には凱旋門賞制覇にあと一歩のところまで迫ったオルフェーヴル。 【予想配信】中央競馬の1年を締めくくるグランプリ「有馬記念」をガチ予想!キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円! この日本競馬史上最強とも評された栗毛の怪物は、2013年の有馬記念でその強さと雄姿を存分にファンに見せつけ、惜しまれながらターフに別れを告げた。 その破天荒ぶりで現役中はさまざまなエピソードに事欠かなかったオルフェーヴルだが、引退して種牡馬となった現在はどのような日々を過ごしているのか。 その様子を著名な競走馬の引退後を追った『もうひとつの引退馬伝説~関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)から一部抜粋・編集してお届けする。 「まるで昔、ヤンチャしていたって感じのパパだなぁ」―― 現在オルフェーヴルを担当している社台スタリオンステーションの上村大輝さんが教えてくれた同馬の近況を聞いて、思わずそんな印象を抱いた。 上村さんがオルフェーヴルを担当するようになったのは今から3~4年前。種牡馬として5~6年ほどのキャリアを積んだ時期だった。 現役時代はその強さと共に激しい気性で知られた馬だっただけに、最初の印象は「怖かった」という上村さんだが、すぐにあることに気づいたという。 「気性がうるさいというよりも、ちょっと人見知りみたいなところがあって。人に順番をつけるところもあるんです。自分よりも位が上と感じた人には従順で言うことを聞くし、反対に自分よりも位が下と感じたスタッフには、イタズラとして曳き運動の時にわざと立ち上がったりして」 まるで犬の順位づけのようなエピソードが飛び出したが、つまり、賢いオルフェーヴルは「誰が一番世話をしてくれるか」をじっくりと見ているのだ。 そのため、同馬とは毎日のコミュニケーションがとても大切で、信頼されるようになると、言うことをちゃんと聞いてくれるようになったという。 そんなオルフェーヴルの現在の役割は走る馬を出すことだ。 実際、初年度産駒からGⅠ4勝のラッキーライラック、近年でもドバイWCを制したウシュバテソーロといった活躍馬を輩出する人気種牡馬だけに、種付けシーズンともなると多くの繁殖牝馬がやってくる。 しかし、やや小さめの馬体のため、種付け時にはこんなエピソードがあるという。 「比較的大きな繁殖牝馬がやってくることが多いので、サイズを合わせるために畳を下に敷くんです。通常だと1枚ですが、馬体の小さいオルフェーヴルは2枚必要になります。ただ畳の枚数が増えるとバランスが取りづらく、体勢を保つためにスタッフもたくさん必要になるので苦労します。でもオルフェーヴルは身体能力が高いので、後ろ脚でしっかりと立って踏ん張れるんです。そのたびに『バランスのいい馬だな』と感心しますよ」 オルフェーヴルは身体能力の高さに加えて四肢のバランスも非常に良いという。それは蹄に表れている。種牡馬は種付け時に蹄がすり減ってしまう。 オルフェーヴルもまた例外ではないが、そのすり減り方が4本共に均一なのだ。これは日ごろの動きのバランスの良さの賜物で、削蹄などをする必要があまりないという。 なので放牧地に出すと音を立てず、上村さん曰く「まるで忍者のよう」に、サッサッサという感じで歩いてくる。 現役時代のオルフェーヴルといえば、1歩の踏み込みの強さに定評がある馬だった。それなのに、これだけ音を立てずに歩けるというのは意外である。 しかも放牧地表に転がっている石の位置を覚えているのか、石を踏むこともなく放牧地を闊歩しているそうだ。 「だいぶ年を取ってきたということもあると思いますが、走り回るというより、放牧地をゆったりと回ってきます。放牧地は1カ所につき1頭という形で振り分けているのですが、隣を気にする馬なので、騒がしい馬を隣に入れてしまうとストレスを溜めてしまいます。そこでなるべくおとなしい馬と一緒にするようにしています。最近ではシュネルマイスターが隣にいることが多いのですが、波長が合うみたいで仲良さそうにしているのをよく見ますよ」