ペルーの砂漠がわずか十数年でブルーベリーの意外すぎる一大産地になったわけ
未来のブルーベリーを育てる
現在、ペルーのブルーベリー畑は198平方キロメートルに拡大し、ペルーの次に輸出量が多い競合国と比べて2倍以上の量を輸出している。 ところが2023年、同国のブルーベリー産業は初めて大きな壁にぶつかった。エルニーニョ現象による大規模な熱波がペルー北部の海岸を襲ったのだ。 ブルーベリー産業の中心地であるラ・リベルタ州も被害を免れなかった。気温は平均より4℃以上も高くなり、過去60年間で最も暖かい冬となった。一部の品種は熱波によって壊滅的打撃を受け、生産量が25%も低下した。 この経験に加え、今後も気候変動で気温が上がることが見込まれるため、さらに暑い気候でも耐えられるよう遺伝子を改良した新品種を開発する取り組みが加速している。 科学者たちは、暑さに強い品種を作るために親の苗を交配させ、種を発芽させ、数年かけて評価しながら最もよい種だけを選別している。次に、そのクローン種を作り、試験管内で増やす。 遺伝子技術を使ったもう一つの目標は、粒の大きな「ジャンボ」ブルーベリーを作ることだ。生産量を上げ、市場の期待に応えるために、直径2.5センチを標準サイズにすることを目指す。 2023年、インカズ・ベリーズは「ジャンボ」品種を2種リリースした。ゲレダ氏の姪の名をとって、それぞれ「アレッシア」と「アブリル」と名付けられた。どちらも、気温が低くならなくても育つように熱帯化された品種だ。
労働者の賃金は置き去り
最初こそ困難があったものの、ペルー沿岸地域の気候は、ブルーベリーの生産量を増やし、年間を通した生産に有利であることが証明された。税制上の優遇措置と安い賃金に引き寄せられて国内外から集まった企業は、チリや米国のオフシーズンに高値でブルーベリーを販売し、すぐに利益を上げた。 2023年には、異常気象にもかかわらず、ペルー産の生ブルーベリーは国外で記録的な17億ドル(約2630億円)を売り上げた。現在、ブルーベリーはブドウに次いでペルーで2番目に多く生産される農産物だ。それもあって、2000年と比べて農作物の年間総輸出額は13倍に増えている。 一方、ブルーベリーを収穫する労働者の生活水準は、産業の成功のペースに追い付いていない。 「企業は成長し続けていますが、私たちは1カ月275ドル(約4万2500円)という最低賃金で搾取されています」と、同国最大のブルーベリー輸出企業であるカンポソル社でブルーベリーを収穫するユリサ・ゴンサレスさんは言う。彼女の1日の賃金では、米ニューヨーク市で売られているブルーベリー3パックを買うのがやっとだ。 今のところ、ペルーのブルーベリー産業は数社の大企業による独占状態になっているが、最近では多くの中規模農家も参入し始めている。 76歳のエミリア・ルハン・ペレスさんもその一人だ。ラ・リベルタ州の沿岸、ビル郡にある0.8ヘクタールの土地にブルーベリーを植えようとしている。8カ月後には最初の収穫をし、増え続ける世界の需要に応えるつもりだ。 自分の土地の背景にある乾燥した山々を杖で指しながら、ペレスさんは冗談を言う。「もっと土地が必要になったら、あたりの山は全部もらうよ」 *この記事はピュリツァー・センターの支援で制作されました。
文=Carla Samon Ros/訳=荒井ハンナ