帝王切開の手術は全裸!?「痛い上に恥ずかしいなんて…」「着衣じゃダメなの?」産婦人科医に理由を聞いた
脱衣での帝王切開は、お母さんと赤ちゃんの命を最優先ゆえ
craft khepriさんの帝王切開体験イラストレポに殺到した「全裸になったことがトラウマ」「何のために脱ぐの?」。それらの声は帝王切開の経験の有無に関わらずあり、経験者であっても明確な理由を把握していないようでした。また、病院によって、着衣・脱衣の違いがあるようなコメントもあり、混乱の声が挙がっていました。 帝王切開での出産における着衣の有無について、日本医科大学の鈴木俊治教授は「基本的に、帝王切開の場合、上にかける布(手術シート)の下での着衣はありません」。 その理由を「手術中の妊婦さんの血液汚染や感染予防、そして妊婦さんが安全な手術下の状態にいるかの観察のために脱衣の状態で手術を行います。着衣のまま手術を行うと、背中からの麻酔や手術前後の腟洗浄(帝王切開の感染予防に最も効果をもつ処置)、尿道カテーテルの挿入、血栓予防、その他の観察ができず、安全性の確保ができません」と解説します。 ■帝王切開の段取り <予定帝王切開> 手術室まで着衣で歩行 ↓ 手術台に着いた時にショーツ以外の服を脱ぐ。麻酔の悪影響が出ていないか観察するために胸に心電図を装着し、片手に血圧計をまく(反対の手には点滴)ためにブラは外す。 <緊急帝王切開、超緊急帝王切開> ストレッチャー(寝台)で手術室へ移動することがある。 ↓ 手術室では、服を切断することもある。 <予定帝王切開、緊急帝王切開、超緊急帝王切開> 背中を大きく消毒後、腰の上の方の背骨のなかにある神経に麻酔注射(脊椎麻酔、状況によっては術後の痛みを軽減するための硬膜外麻酔カテーテル挿入) ※妊婦を眠らせる麻酔は、赤ちゃんにも麻酔薬が移行し、しばらく呼吸が止まった赤ちゃんが生まれてくる原因になるので、超緊急帝王切開でないと行わない。 ↓ 数分でほぼ完全に下半身が動かなくなる。看護師がショーツを脱がせ、医師または助産師が腟の中を消毒。自分で歩行や排尿できなくなり、また膀胱が尿で膨らむと赤ちゃんを出すときに傷つく可能性があるため、尿道にカテーテルを入れる。 足には、血栓(エコノミー症候群)予防のために弾性ストッキングやマッサージ器具を装着。麻酔で感覚がなくなるため、おかしな締め付け方をしていないか、看護師が皮膚色などを目視で観察。 ↓ おなかを消毒し、手術を行う部分以外を清潔な布やカバーで覆う。胸は保温のためにタオルなどで覆う。開腹し、赤ちゃんを取り出す。 ↓ 助産師の手伝いのもとで誕生後の赤ちゃんをお母さんが抱っこし、おっぱいを吸ってもらうこともある。 ↓ 手術終了後、血だらけになったおなかや陰部のまわりを洗浄し、看護師が服を着せる。 「服は血だらけになり、おそらくその衣類は使い物にならなくなります。帝王切開ではお腹から血や羊水が平均1000ミリリットルくらい出てきますから。また、手術中は腟からの出血量(悪露の量)や尿の流出や色(傷つくと血尿になったりします)の観察が必要で、ショーツ着用のままでは、安全に手術が進んでいるかどうかの確認ができません。加えて、おなかのなかはもちろん、手術でできた傷の近くに着衣から菌が入ると腹腔内や子宮内の感染症の原因になったり、傷が膿んだりする原因になります」と着衣のままの帝王切開による危険性を指摘。 帝王切開中の医師や看護師、助産師は、おなかの中だけでなく、全身を観察しながら手術を進めていると説明します。 また、「ほとんどの病院では、着衣で手術台まで行ってもらうなど妊婦さんの恥ずかしい気持ちに十分配慮しています。麻酔の導入や、麻酔で感覚がなくなったりしたなどの段階をもって脱いでもらうか、あるいは脱がせていきます」。 「全裸だった」「着衣だった」などの相反する声があることについては、「途中から皮膚の感覚がなくなっていくことから、脱衣されたという感覚が不明だったのではないでしょうか?また、本当の緊急時は麻酔と並行して、麻酔が効いてくる前に、どんどん服を脱がせていくので、妊婦さんは脱衣の過程をより意識してしまった可能性はあります。一方で、着衣だったとおっしゃっている方は、施設の気遣いなどもあって、脱衣の感覚が低かったのではないかと考えます。手術終了後、感覚がないうちに着衣してくれることもあります」。 厚生労働省の『令和2年(2020)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況』によると、総出生数およそ84万人のうち22.4%にあたる約19万人、妊婦さんの約5人に1人が帝王切開で出産。出生数は減少しているものの、帝王切開による出産は増加傾向で、この30年で倍近くになっています。 出産に携わる医療従事者にとって、脱衣での帝王切開は日常。しかし、妊婦や産婦にとって、出産および帝王切開は人生で数度しかない経験しない非日常。今回物議を招いたのは、両者の認識・知識・経験の違いも一因ではないでしょうか。 鈴木教授は言います。「今後、帝王切開での出産を行う女性やその家族、また過去の帝王切開手術に苦い思いを抱え続けている人もいると思います。脱衣は手術を安全に行うために必要なことだという認識が広まって欲しい」。 (まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・宮前 晶子)
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