侍ジャパンの「抑えを決めない」流動的勝利の方程式の妙
侍ストッパーに牧田が就任。 かと思いきや、牧田は、「ストッパー? 7回から準備したが、まったく何も言われていない」と言う。権藤投手コーチに同じ質問をぶつけると「ふふふ」と笑う。 「きのう、きょうは、牧田に(相手打者が)合わないと思ったから使っただけ。牧田をストッパーと決めたわけではない。昨日、今日のように何人かをローテーションで回す。これだけのいいピッチャーが揃っているんだ。それにまだ投げていないピッチャーもいる。まあ、誰で行くかが、だんだんと煮詰まっていくけどね」 言うならば、侍ジャパンの流動的勝利の方程式である。 今回、招集した平野、岡田、秋吉、宮西、牧田、増井、松井の7人の中継ぎ、ストッパーのスペシャリストのうち、5人を前の登板、球数、相性、展開などを考慮しながら、試合毎にピックアップしておき、スタンバイさせるもの。権藤コーチが「ローテーション」という表現をしたのは、そういうことだ。 つまりキューバ戦には、平野、岡田、秋吉、牧田、増井の5人がスタンバイしていて、増井を除く4人が登板、この日の試合では、岡田、宮西、牧田、増井、松井がスタンバイして、3人が使われたわけである。 他チームを見ても、小刻み継投がWBCのトレンドで、その流れに乗った画期的戦術ともいえるが、ひとつ間違えば、キューバ戦のような危うさもある。逆にはまれば、対戦相手は、試合の終盤に誰が出てくるのか、準備のしようがなくなる。 また則本が2次ラウンドでは先発起用される方向だが、その後はブルペン待機となるため、対戦相手次第では、則本ストッパーという可能性も残されているのである。 だが、一方でプレミア12の韓国戦は、この流動的勝利の方程式が裏目に出て逆転を許し優勝を逃した。今大会では、ストッパーは決めておくべき、との声も強かった。どうも、この流動的な勝利方程式には、諸刃の剣的な危険をはらんでいるような気がしてならない。 実はWBCの大会前に元中日のレジェンド・山本昌氏と、この戦術について議論したことがあった。 山本昌氏は、「誰が出ても遜色がないほど一流が集まった侍ジャパンだからこそできる戦術。そういう意味でストッパーを決めずに流動的にやるという戦術に私は反対ではない。むしろ、選手の力を最大限に引き出す理想的な戦術だと思う。ただ、誰をどこで使うか、使う側の采配が非常に重要になってくる。おそらく権藤さんが主導していると思うが、そういう点では監督経験もあり、鋭い戦術眼を持つ権藤さんなら大丈夫だと思う」と、流動的勝利方程式に賛成の意見を持っていた。 いかに一致団結し、勝利の襷をつなぎながら、絆を深めるか。 今日の中国ー豪州戦で、順当に?中国が敗れた時点で、日本の2次ラウンド進出が決まる。プールBからは、オランダに韓国を倒して旋風を巻き起こしたイスラエルが出てくる。プールAの残り1チームは、10日に予定されているキューバ対豪州の勝者になるが、いずれにしろ、簡単な戦いではない。日本が誇る精鋭たちの流動的勝利の方程式が、その浮沈の鍵を握っていることは間違いない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)