社説:与党の税制改正 国会で責任ある議論尽くせ
政権維持のための取引と先送りが目に付き、急ごしらえの感が拭えない。 与党が2025年度の税制改正大綱をまとめた。焦点となった所得税が生じる「年収103万円の壁」は、123万円まで非課税枠を引き上げる。 物価高が続く中、約30年間も据え置かれてきた控除額を見直すのは理解できる。主婦パートらの働き控え解消への期待もあろう。 3党協議で、国民民主党が最低賃金の上昇率を根拠に「178万円」を主張したのに対し、自民、公明両党は物価上昇幅をもとに、計20万円の引き上げとした。 地方自治体の減収は178万円になった場合の4兆円からは抑制され、最大1千億円となるという。だが、減収分の穴は埋めないとしており、福祉などの給付減につながる懸念が残る。減税効果は、年収400万円で5千円程度と見込まれる。 一方、大綱には「178万円を目指して、来年から引き上げる」との3党合意を明記した。国民民主が25年度当初予算案などへの協力を引き換えに、要求を強める不確定要素を含む。 政局の駆け引き材料に、税制を利用する3党の姿勢は無責任と言わざるを得ない。 大学生年代(19~22歳)の子を扶養する親の税負担軽減も、子の年収制限を103万円から150万円へと引き上げた。「さらに学生を働かせるのか」との批判もある。奨学金制度の充実など、安心して学べる環境作りこそ優先すべきではないか。 負担増は先送りが目立つ。 防衛力強化の財源のため、法人税とたばこ税の引き上げを2026年4月から始めるが、所得税は開始時期の決定を3年続けて見送った。「壁」の見直しによる減税との整合性から慎重論に傾いた。 そもそも防衛費「倍増」の規模ありきを見直し、必要性を精査せねばならない。 高校生年代(16~18歳)の子がいる世帯の扶養控除は、児童手当の拡充の代わりに昨年の大綱で縮小を明記したが、先延ばしして維持するという。 減税効果を当て込んだ税収増頼みは、場当たりに過ぎる。負担増を巡る議論を避けていては財政の持続性はおぼつかない。 躍進したとはいえ、衆院議席6%の国民民主の一部意見を入れ、少数与党がまとめた大綱は説得力を欠く。 立憲民主党などからは、社会保険料の負担が生じる「130万円の壁の方が高い」と見直しを求める案が出ている。 富裕層の所得税負担率が下がる「1億円の壁」解消に向けた金融所得課税の強化などは、財源の捻出に向けて真剣に議論すべきだろう。 与野党がオープンな国会の場で、税と社会保障を含めた公平な負担の在り方を議論してもらいたい。