今からでも観ておきたい今年の「秋ドラマ」秀作5選、第1位はNHKが手がける話題の教育ドラマ
■ 【2位 TBS『海に眠るダイヤモンド』(日曜午後9時)】 主人公は2人。まず1955年の長崎県端島(通称・軍艦島)に生きる鉱業会社の勤労課職員・荒木鉄平(神木隆之介)。端島は石炭を掘るためにつくられた人工島で、1974年に島が閉ざされた。もう1人は2018年の東京で売れないホストをしている玲央(神木の2役)。2人は瓜二つである。 鉄平は長崎大卒業後、生まれ育った端島の鉱業会社に入る。父親・一平(國村隼)は猛反対したが、それでも鉱業会社入りしたのは意地でもある。 長大時代、学友から出身地を問われ、「端島」と答えると、軽蔑の眼差しを向けられた。やはり端島から長大に入った古賀賢将(清水尋也)、百合子(土屋太鳳)も同じだった。 端島を愛する鉄平は悔しくて泣いた。賢将も無念のあまり、「日本の発展を支えてきたのは石炭!」と叫ぶ。 一方、本土から端島に渡って来て、職員クラブのウエイトレスになった元歌手・草笛リナ(池田エライザ)は鉱業会社の取引先の社長・三島(坪倉由幸)に体を触られ、「気やすく触るんじゃないよ!」と怒声を挙げる。だが、「たかが端島の女風情が」と侮辱されてしまった。 脚本を書いている野木亜紀子氏の描きたいことの1つは、名もない人たちが汗を惜しまず、不当な差別にも耐えたから、現在の日本があるということではないか。 野木氏は過去、TBS『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)、などエンターテインメント色の強いドラマを書いてきたが、昨年はWOWOW『連続ドラマW フェンス』で沖縄の基地問題や米兵による性的暴行問題などを描き、権威あるドラマ賞を総ナメにした。この作品も社会派色が強くなりそうだ。 いよいよ1位。10年に1度、あるかないかの傑作教育ドラマである。「教育とは何か」「学校と教師はどうあるべきなのか」を考えさせられる。
■ 【1位 NHK『宙わたる教室』(火曜午後10時)】 主人公は科学者・藤竹叶(窪田正孝)。大学准教授などを勤めたあと、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に誘われたが、それを「やりたい実験があるので」と断る。東京の都立東新宿高校の理科教師になった。全日制ではなく、夕方から授業を行う定時制である。 第1回。藤竹が担任する2年生クラスの柳田岳人(小林虎之介)があまり登校しなくなった。悪い仲間と付き合うなど生活も荒んでいる。 柳田は昼間、ゴミ収集の仕事をしているが、職場の先輩から「小学生からやり直せ」と嘲笑されたのが発端だった。柳田は読み書きが大の苦手なのである。 柳田は1年のときには熱心に授業に出ていたから勉強が嫌いなわけではない。試験も計算問題なら得意なのだ。ところが記述問題は全く出来なかった。腐った柳田は退学届を出す。 柳田は素行が良くなかったから、多くの高校は強く引き留めないのではないか。だが、藤竹は「やめてどうするんですか?」と言い、辞めさせない。その後も柳田を追い回す。藤竹は柳田がディスレクシア(読み書き障がい)であることを見抜いていた。 藤竹からそれを知らされた柳田は愕然とする。子供のころから成績不良で両親を落胆させてきたが、自分のせいではなかった。「オレは怠けていたわけじゃねぇ」と泣いた。一方で藤竹に対し「今さらそんなこと言われて、どうするんだよ」と噛み付く。 それに対し、藤竹はリカバリーの方法があると説く。さらに「あきらめていたものを取り戻したらどうですか」と言い、科学部の立ち上げメンバーになることを勧める。柳田は科学が好きだった。ディスレクシアをリカバリーすれば、科学にも打ち込める。 第4回。大半の生徒と大きな年齢差がある上、あまりに学習熱心なので、クラスで70代の元町工場経営者・長嶺省造(イッセー尾形)が孤立する。柳田らは「ジジイ」となじり、一方で長嶺は「最近の若いもんは……」と苦虫を噛みつぶす。中卒で集団就職した長嶺は現代の若者が甘やかされているように見えて仕方なかった。 しかし、柳田がディスレクシアで、それを克服するための教室に通っていることを長嶺は知る。リストカットをした跡のある女子生徒の存在も目の当たりにした。苦労をしているかどうかに年齢は関係ないことが分かる。 その後、長嶺は藤竹の依頼を受け、授業中に講演する。若い生徒は不満を露わにしたが、やがて静まり帰る。長嶺はやはり中卒で現在は闘病中の妻・江美子(朝加真由美)の代わりに高校に入ったのだった。 長嶺が学習熱心なのは江美子に授業内容を完璧に伝えられるようにしたかったから。藤竹は長嶺に内緒で江美子の見舞いに行っていたから、全て知っていたのだ。 藤竹は生徒にとって最善のサポートをすることが教師の役割だと考えている。自分と生徒は対等だと考えているから、生徒にも敬語を使う。 偏差値の高い高校、大学に多くの生徒を入れた学校や教師を評価する風潮が続いているが、評価基準はそれだけでいいのか。この作品はそう静かに語り掛けてくる。
高堀 冬彦