岡田将生、綾野剛、池松壮亮らの存在感 2024年のエンタメシーンを牽引した男性俳優たち
この2024年もまた、数々の演技者たちによる素晴らしいパフォーマンスに触れることができた。彼ら彼女らが生み出した瞬間を思い出すと、ぐっと込み上げてくるものがある。 【写真】岡田将生の“悪い顔”が話題に 『ゴールド・ボーイ』場面写真 ここではそんな者たちの中でもとくに個人的に強く印象に残った男性俳優10名に焦点を当ててみたい。映画、ドラマ、演劇のシーンに、彼らはどのような功績を残したのか。 岡田将生 2024年のエンタメシーンを振り返ったとき、真っ先にその顔と名前が浮かぶのは岡田将生である。主演を務めた『ゴールド・ボーイ』をはじめ、『ラストマイル』に『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』と、主要なポジションで参加した映画が3作品も公開された。サイコな殺人鬼から天才詐欺師まで演じ分け、私たちは岡田の持つ多才さと多彩な表情を堪能できる一年となった。いずれも今年の彼のハマり役である。しかし、2024年の岡田を語るならば、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)『虎に翼』における功績を無視することはできないだろう。そうだ、絶対にできない。「朝ドラ」は“国民的ドラマ”に位置付けられるものであり、同作が描いていたのは、この社会の不条理に立ち向かう者たちの物語だ。主演の伊藤沙莉とともに、岡田は今年の顔だろう。 名村辰 「朝ドラ」は若い才能が飛躍する場でもある。『虎に翼』から羽ばたき、次なる大舞台で再会できる者たちが何人いるだろうか。個人的には小橋浩之を演じた名村辰がとても印象に残っている。小橋は物語の展開の中で何かとトラブルを起こすのだが(しかも彼が原因の)、名村が体現すると「ただのイヤなヤツ」にとどまらず、どこか憎めない存在として映るのだ。名村自身が持つ天性の何かによるものなのか、はたまた演じるうえでの計算なのか。終演したばかりの舞台『ケレン・ヘラー』でも少し近い役どころを担っていたので、天性の何かと計算のどちらもなのだろう。初夏に上演された『雨とベンツと国道と私』での演技もよかった。 佐久本宝 演劇シーンで輝いた俳優といえば、『ライカムで待っとく』に出演した佐久本宝もいる。アメリカ占領下の沖縄で実際に起きた事件をモチーフとした本作は、現在と過去とを往還しながら、現代社会における沖縄と私たちの関係を鋭く描き出すもの。2022年に上演されて好評を博した作品の再演で、佐久本はこの再演からの参加者だ。李相日監督の『怒り』(2016年)で俳優デビューを果たした彼も沖縄出身者である。演者本人と役のルーツが重なる場合、私たちは何らかの運命めいたものを感じずにはいられない。しかし、それは呑気な話だ。そこには演じる本人にしか感じ取ることのできない苦しみや重責というものがあるはず。佐久本は『十一人の賊軍』(2024年)にも好演を刻んだが、やはりこちらの力演のほうが圧倒的に印象に残った。そして私はこれからも忘れないだろう。 松本潤 やはり演劇はナマモノということもあって、俳優のパフォーマンスを体感したあの時間は忘れられないものだ。NODA・MAPの『正三角関係』を率いた松本潤もそんな瞬間を生み出した。大河ドラマで主演を務めた次の俳優の仕事として、まさかの野田秀樹が率いるNODA・MAPに出演するとは驚いたものだ。しかも彼にとって13年ぶりの舞台である。正直なところ、観ていて不安になる部分はあった。脇を固めているのが野田作品の常連俳優たちだから相対的にそう感じてしまったというのもあるのだろう。けれども松本が必死になって舞台上を駆け回り、セリフを口にする姿が、彼が演じる役どころとも重なった。また再び舞台に立つ俳優・松本潤を、信じてみたくなった。そもそもNODA・MAPで主演を務める者の肩書きの先頭に、「タレント」や「アイドル」が並ぶ者はいなかったと思う。演劇シーンに残る事件を目の当たりにした。 綾野剛 綾野剛のパフォーマンスには相変わらず今年も深く感動させられた。「どの作品の話?」と聞かれて私が答えるのは、『本心』と『劇場版ドクターX』におけるものについてだ。何せこの両作に綾野は、それぞれ1シーンずつしか出演していない。登場時間はものの数分足らず。観客によっては演じているのが綾野だと気が付かなかった人もいるのではないかと思うほど。厳しい制限の中でも確実に作品のクオリティに強度を与えてみせる。それが綾野剛だ。主演を務めたNetflixシリーズ『地面師たちの抑制的な演技も素晴らしかった。 吉村界人 そしてこの『地面師たち』で一気にその名を世間に、いや世界に轟かせたのが、吉村界人である。彼にはすでにいくつもの主演作や代表作的なものがあるのだが、Netflixのオリジナルドラマともなると話は別のようだ。一時期はどこへ行っても彼に関する話題を耳にしたもの。吉村は軽薄な役どころを表現するのがじつに巧い俳優なのだが、彼は本作でこの路線を極めたと思う(「本人の素なのでは?」と多くの人々が口にするほど)。どんなタイプのキャラクターであれ、磨き抜かれた表現の先にあるのは「美」だ。彼が体現するナンバーワンホストは最低な人間であるいっぽう、そういった演技に彼が徹するあまり、美しささえ感じてしまったしだいなのだ。年明けには主演映画『Welcome Back』が公開される。彼が追求する「美」の複雑さを劇場で体感してほしい。