表現者としてユニークな活動を見せた池松壮亮＆東出昌大

池松壮亮＆東出昌大 　俳優としてだけでなく、いまを生きる表現者としてユニークな活動を展開していたのが池松壮亮と東出昌大。池松は『ぼくのお日さま』や『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』というまったく毛色の異なる若手作家の作品を若きベテランとして支えつつ、これまでに何度もタッグを組んできた石井裕也監督との最新作『本心』では、企画の段階から関わっていたのだという。どこかから声がかからないかぎり稼働ができないことから、俳優とはしばしば“待ちの職業”だと言われるが、池松はもうその次元にいない。そう感じさせられた一年だった。 　いっぽうの東出は、自身の人生そのものにカメラを向けたドキュメンタリー『WILL』が公開されるところから2024年をスタート。そこには芸能人らしい装飾を剥ぎ取られた、いや、自ら取り去った、東出の姿があった。私たちと同じようにこの世界で、生命や人生に向き合う男の姿だ。これまでもずっと彼の動向を追ってきたが、やはり2024年は特別に面白かった。舞台芸術の在り方を拡張させる「小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク」の『Alice in Wonderlight 光の中のアリス』に出演したかと思えば、早稲田大学広告研究会に招かれて『非常識リテラシー』なる講義まで行っていた。その活動領域は一般的にイメージされる俳優のものにとどまらない。東出昌大の可能性は計り知れないのだ。 成田凌 　映画俳優として活躍した者にフォーカスすると、そのひとりに成田凌がいる。その怪演ぶりが反響を呼んできた『スマホを落としただけなのに』シリーズの「最終章」にて彼は、殺人鬼・浦野善治を再び演じ、今回は座長を務めていた。これまでは他者の視点をとおして危険人物として描かれてきた浦野だが、『スマホを落としただけなのに ～最終章～ ファイナル ハッキング ゲーム』では印象が異なる。危険人物には変わりないのだが、今作は彼に寄り添った視点のものになっているため、浦野善治という人間の肌触りがこれまでとはかなり違う。ひとりのキャラクターにここまで深みをもたらせるものかと感動した。これに加え、『雨の中の慾情』ではつげ義春の世界を生き、『【推しの子】-The Final Act-』では次代を担う若手俳優たちを牽引するような役どころに。映画界における成田凌の功績は大きいだろう。 永瀬正敏 　ここまでは比較的若手世代の俳優たちについて述べてきたが、ベテラン俳優に目を向けるならば絶対に触れなければならない人物がいる。主演映画『箱男』が公開された永瀬正敏だ。同作はもともと1997年に制作されるはずだったが、クランクイン前日に撮影が中止となり、“幻の企画”のまま時が流れた。当時の永瀬は30歳で、本稿で名を挙げた俳優たちとほとんど同世代。その心中を察するとやりきれない。しかしこの映画化に対する熱量が持続し続けた結果、27年越しに悲願の映画化が実現したのだ。「映画俳優」としての在り方を背中で語るとは、こういうことだろうか。 　さて、男性俳優10名について長々と書き連ねてきたが、それぞれに対して個人的な偏愛ポイントがあることは明言しておきたい。演技者の道を極める者もいれば、マルチな才能で「俳優」という枠組みから飛び出していく者もいる。時代はつねに大きく動いているのだ。2025年は誰のどんなパフォーマンスに心を震わせることになるだろうか。