天然の魚が将来は貴重品に?「食のサスティナビリティ」は救世主となるか
我々が口にする魚は一体どこから来たのか?
シーフード・サステナビリティが早急に世界的規模で確立されなければならない理由は明白だ。世界中の海で、天然の魚の数が減少傾向にあり、持続可能なサイクルを確立しない限り、天然の魚が食卓から消えるだけではなく、海洋生態系にも大きな打撃を与える恐れが存在するのだ。 2014年2月、世界銀行は2030年に世界の漁業や養殖業が現在と比較してどのように変化しているかについて調査・予測した報告書を発表した。現在のような魚の乱獲が続いた場合、2030年に世界中の消費者のもとに届けられる水産品の半数以上は養殖品になるのだという。水産省のホームページによると、2012年に日本国内における水産品の総生産量は約486万トンで、そのうち「天然物」が78パーセントを占めていたが、養殖よりも天然物の割合の方が高いのはホタテ貝やコンブ類、サケ類といった限られたものであった。 我々が普段、口にしている水産品はどこから来たのだろうか? 日本の食卓に並ぶシーフードは世界中から届けられており、寿司店で口にするクロマグロは太平洋と大西洋から、「えんがわ」として知られる大鮃(おひょう)はアラスカやカナダの水域で、「あまえび」として知られるホッコクアカエビは、カナダ・グリーンランド・ロシアの水域を中心に曳き網漁を用いた方法で獲られている。カツオといえば、日本では春と秋の旬な魚としてよく知られているが、カツオの世界全体の漁獲高の5割はパプアニューギニア水域における漁獲で占められている。漁業国として知られる日本では、一見するとほとんどの水産品が日本近海で獲られたようにも思えるが、実際には海外での漁獲に依存している部分は大きい。 水産品は日本の国内外を問わず、あらゆる地域から日本に流通され、消費者のもとに届く。乱獲や水産資源の枯渇の危険性を意識しながら魚を食べる人は少ないだろうが、このままでは天然の水産物が貴重な食材になる時代の到来はそれほど先の話ではない。ある例を挙げると、漁業が本格的に行われていなかった時代のクロマグロの数を100とすると、現在のクロマグロの数は2.5程度にまで激減しているという指摘がある。WWFジャパンで海洋水産グループ長をつとめる山内愛子さんは、魚の激減具合を数字で説明する。 「魚によって数字が出ているものと出ていないものがありますが、持続可能な最低限のレベルとして、どの魚も20パーセント以上を維持しなければならないと言われています」 山内さんはサステナビリティという考えが日本国内でも少しずつ広まってきた現状を踏まえながら、同時に日本国内には独特な消費者意識が存在し、消費者の間ではサステナビリティよりもプライオリティの高い事項があるのだと語る。 「まだ日本の中でみなさんが気にされるのは、合法か違法かという点なんですね。違法な物は食べないという消費者の方の声を耳にすることはありますが、それらの問題とサステナビリティの問題は同一で語ることはできないんです。例えば、密漁という言葉には多くの消費者が厳しい反応を見せますが。しかし、合法で獲られたものでも、それが資源の枯渇を生み、周辺の環境にダメージを与えているといった話には消費者がどう対応すべきか分からないままの状態が続いているのだと思います」 少しずつ認知度が高まりながらも、まだ国民全体に浸透しているとは言えない日本のサステナビリティ事情。後編ではサステナブル認証を受けることによって水産品の商品価値向上を試みる宮城県塩釜市の企業の取り組みや、水産品の持続可能性を進めていく際の課題について紹介する。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト