【“マルキの闇”裁判終結へ㊥】兵庫県警機動隊員連続自殺の真相 警察組織による「パワハラ」隠ぺい たどり着いた真実と壁
■「パワハラが原因で自殺」兵庫県を提訴
2か月後の2017年8月、木戸巡査の父・一仁さんは、裁判を起こすことを決断し、北海道へ向かった。警察組織でのいじめやパワハラ自殺をめぐる訴訟で、豊富な実績を持つ市川守弘弁護士に直接会って依頼するためだ。 弁護士事務所へ向かう道中、父・一仁さんが「北海道は家族旅行で大地と一緒に訪れた思い出の場所でもある」と教えてくれた。その手には大地さんの写真が握られている。「あの時の大地の笑顔が懐かしい。また見たいなぁ」優しく微笑む父親の目には涙があふれていた。 弁護士事務所で、市川弁護士と打ち合わせを行った。パワハラ自殺をめぐる民事裁判では、訴えを起こした原告側が、自殺した原因がパワハラだったことを証明する必要がある。特に警察相手の裁判では、内部調査の結果や関連資料など、重要な証拠が全て警察側にあるため、立証は困難を極める。 市川弁護士は「大地さんは、警察内部のことをまわりの人にほとんどしゃべっていなかった。当時、何があったかが手探りの状態で、難しいケースだ」としながらも、一緒に警察組織と闘うことを遺族と約束した。
■たどり着いた真実 兵庫県警の内部資料を入手
木戸巡査が自殺してから2年が経った2017年10月、遺族は「警察内部のパワハラが原因で自殺した」として、兵庫県に約8000万円の損害賠償を求める裁判を起こした。 真相を追い求める遺族に対し、黒塗りの文書を出し続けてきた兵庫県警。 双方の言い分が平行線をたどる中、私は黒塗りの奥に隠された「真実」を知りたいと取材を続けてきた。 そして、2018年春、関係者から警察の内部資料を入手した。兵庫県警が、木戸巡査の自殺について機動隊員らを対象に行った聞き取り調査をまとめたものだ。
■「パワハラ」告発も兵庫県警が隠ぺい
兵庫県警の内部調査では、「木戸巡査が遺書で名指ししたA隊員から暴力や暴行などを受けているのを見たことがあるか」との質問に対し、29人中3人が「はい」と回答。同僚らは「A隊員」が、木戸巡査を指導する際に暴言を吐いていたことや木戸巡査だけを厳しく叱責していたことなども証言していた。 さらに「木戸巡査の自殺の原因はA隊員による明らかなパワハラである」との証言もあった。 兵庫県警は、内部調査で機動隊員らが組織内のパワハラを告発していたにも関わらず、この事実を隠ぺいし「パワハラはなかった」とする調査結果をまとめたのだ。若き警察官が組織内でのパワハラに悩み苦しんだ末に命を絶った事実を、真っ黒に塗りつぶした兵庫県警の責任は重い。 私は、同僚隊員が「木戸巡査の自殺の原因」と断定した「A隊員」への接触を試みることにした。(つづく)【全3回のうちの第2回】 第3回は、木戸巡査にパワハラを行っていた「A隊員」への取材と裁判について詳しくお伝えします(3月20日を予定)。