【厚生年金の加入要件緩和へ】「結婚後も継続就労」か「退職して第3号被保険者に」で生涯収入に2億円の差 そのうち“厚生年金効果”は3000万円
わずか5年で「老後資金2000万円問題」が「4000万円」に膨れ上がった。公的年金も実質的な減額が続き、止まらない値上げがそこに追い打ちをかける……危機的状況を回避するためには、保険料を支払ってなお、あり余るメリットがある「厚生年金」への加入を検討するべきではないか。【前後編の前編。後編を読む】 【表】パート・アルバイトが「厚生年金」にもっと入りやすくなる 10月以降の制度内容の変更点
将来的には加入要件を撤廃する見通し
“働いていれば誰もが厚生年金に加入できる時代”がそう遠くない将来、現実になろうとしている──5月29日、政府は「厚生年金」の企業規模を撤廃する方針を固めたことを発表した。 現在、パート・アルバイトについて厚生年金に加入できる企業の要件は「従業員数101人以上」で、その中でも「週20時間以上労働」「賃金は月額8万8000円以上」「70才未満」に限定している。これが今年10月からは「従業員数51人以上」とより小規模な事業所でも加入できるようになる。この緩和で対象者は約20万人増えるとされており、さらに政府は来年の通常国会に向けて「条件撤廃」の法案提出の方針を固め、パート・アルバイトの対象者は約130万人増加する見込みだ。 厚生年金の規模要件の存在については「実は2012年に定められた法律に『当分の間の経過措置』として位置づけられ、10年以上も前から撤廃が求められてきた」と話すのは、厚生労働省の社会保障審議会年金部会で委員を務める慶應義塾大学商学部教授の権丈善一さんだ。 「2012年から12年にもわたって規模要件の撤廃が進まなかったのは、事業者側の反発があったから。厚生年金の保険料は加入者と企業が半分ずつ負担する『労使折半』のため、多くの企業が年金保険料を負担するのを拒んだ結果、適用は501人以上、101人以上、51人以上と徐々に進み、それがこのたびようやく規模要件の『撤廃』というところまできたということです」
「国民年金だけでは老後が不安」という人たちも
厚生年金の保険料は収入の18.3%となっており、これを加入者と企業で9.15%ずつ負担することになる。例えば、パート・アルバイトの時給が1000円なら、新たに厚生年金に加入すると、企業はここに厚生年金保険料分を入れた時給1091.5円を支払わなければならなくなるのだ。 「一方で加入者側は、厚生年金に加入しなければ時給1000円なのが、加入すると手取りは保険料分の91.5円が引かれた時給908.5円に減る。 これを“年収の壁”と呼び、厚生年金保険料を払わずに済むよう夫の扶養の範囲内で働こうとする就業調整を行う人もいるのです」(権丈さん) 配偶者の扶養の範囲内で働くパート主婦は「第3号被保険者」となり、厚生年金保険料を支払う必要がない。だが、要件緩和によって厚生年金に加入すれば新たに保険料負担が生まれる。これを「第3号撤廃」「専業主婦いじめ」などと批判する向きもある。だが、社会保険労務士の井戸美枝さんはこう話す。 「確かにパートやアルバイトでも厚生年金に入れるようになるという意味で、第3号の“縮小”は進むでしょう。しかし、第3号の対象には育児や介護などで働けない期間がある人もいるので、完全に撤廃されるとは考えにくい。むしろ、厚生年金対象者の拡大に救われる人が一定数います」 事実、全国民が加入する国民年金(基礎年金)だけに加入しているのは、自営業者や専業主婦ばかりではない。就職氷河期世代など、厳しい雇用環境の中で働き続けているのに厚生年金に加入できず、「国民年金だけでは老後が不安」という人たちも、厚生年金に加入できれば将来の年金を増やせるようになる。