地主が資産1億円を「長男と長女」へ「10年」にわたって贈与をすると…“節税額”に驚愕【元メガ・大手地銀の銀行員の助言】
そのほかの3つの贈与方法
1.住宅取得資金贈与 直系尊属から直系卑属への贈与であり、要件を満たせば非課税になる。 図表9のとおり要件があり、要件を充足しないと利用できない。見落としがちな点として受贈者の所得要件があり2,000万円以下でないと利用できない。受贈者が高所得者である場合には留意が必要である。 非課税限度額については建物の機能で異なっており、令和6年時点において省エネ等住宅は1,000万円まで非課税、それ以外は500万円まで非課税となっている。 以前は3,000万円まで非課税であったころ(消費税増税時)もあり、非課税限度額は一定ではなく変動しており、徐々に縮小している。 また、地主の場合においては後継者が自宅を所有することになり、小規模宅地等の特例が使えなくなるリスクもあることから、そもそも住宅の取得にあたっては慎重に検討すべきである。 2.教育資金贈与 教育資金にあてるための贈与である。 最大1,500万円までが非課税となる。年齢要件や資金使途の確認などが必要であり利用にあたっては留意が必要である。また、未利用の分について贈与税や相続税がかかることもあり、一度贈与したから完了というものではない。 3.結婚子育て贈与 結婚やその後の子育てのための贈与である。 最大1,000万円までが非課税となる。受贈者が18歳以上50歳未満の場合に利用可能である。教育資金贈与と同様に資金使途の確認が必要であり、未利用分については贈与税や相続税がかかるため、こちらも留意が必要である。
まとめ:「贈与の目的」をしっかり定めよう
地主の贈与税について検討してきたが、地主の相続対策において、贈与は必ず検討すべき事項である。令和6年からは税改正により暦年課税と相続時精算課税の使い勝手が大きく変わった。特に高齢の場合には暦年課税の適用について慎重に検討が必要である。 そのほか、住宅取得資金贈与などの贈与もあるが、そもそも贈与をすることが「なにを目的とするか」が極めて重要であろう。 地主の場合においては相続税を減らす、次世代に納税資金を確保させるという点も大切であるが、個人的には贈与資金をもって次世代の育成に資することが最も重要であると考える。祖父母の資金にて孫の教育資金を支払い(あえて教育資金贈与を利用する必要もないと思う)、将来の当主として相応しい人物となるよう支援することが一族の長期的な発展に最も寄与すると思う。 その後、立派に成長を遂げ、住宅取得資金贈与においても受贈者の所得が2,000万円を超えており、そもそも要件を充足しないというような状況となるよう、積極的に育成のために資金を使い、課税資産を圧縮していくことが望ましい。贈与者からの大切な資金を受贈者が遊興費に使ってしまえば、せっかくの贈与が水の泡となってしまう。 したがって、贈与にあたっては節税の観点のみならず、なにに使うかも含めた検討が肝要である。 参考 ※1: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm ※2: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm ※3: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103_sankou.htm ※4: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm ※5: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0024005-031_01.pdf 小俣 年穂 ティー・コンサル株式会社 代表取締役 <保有資格> 不動産鑑定士 一級ファイナンシャル・プランニング技能士 宅地建物取引士
小俣 年穂