俳優・松村北斗のハマる魅力 人気監督のもと猛スピードで飛躍
仕事中にはいつもシュパッと蓋を開けてペットボトルの炭酸水を飲んでいるのだが、その日イライラしていた藤沢さんは“炭酸飲むの、止めてほしいんだけど”とクレームを入れる。「え……?」と戸惑う山添くんのリアクションに、“なるほどこれは、問題を抱えた女性と心を閉ざした男子が最悪の出会いを果たして、そして……という物語?”と先読みしそうになる。
やがて山添くんもまた、パニック障害という問題を抱えていることがわかる。それもセリフではなくエピソードの積み重ねで。要は、すべては俳優の演技にかかっている。
藤沢さんは山添くんに、「これよかったら使って」と頼まれてもいないのに自転車を持って行ったり、自宅まで食べものを届けたり、何かと近づいてくる。普通なら“え、もしかして気がある?”と思い込みそうなところだが、藤沢さんはもちろん、山添くんにもそんな気はさらさらない。それでいて表面的に明らかでなくても、中身はどんどん変化していく。
彼らの演技は、かなりハイレベルだ。同じように生きづらさを抱え、会社の同僚で、同じプロジェクトに取り組むも友達という感じでもなく、恋愛にも発展しない。「いつ踏み外してもおかしくない」という微妙な距離感を、もはやあうんの呼吸のような上白石を相手に、これ以上にないバランスで構築していく松村。そうして映画が終わったころには、胸の中に温かい思いがじわっと充満している。そこに向けて息をつめるように演じてきた彼の、俳優としての底力に圧倒される。
新海誠、岩井俊二、三宅唱と、日本の俳優なら誰もが憧れる監督から求められる松村北斗。彼がこの先どんな作り手と組み、何を吸収して、どんな俳優になっていくのか? 正直ちょっと、想像がつかない。