俳優・松村北斗のハマる魅力 人気監督のもと猛スピードで飛躍
映画『ホリック xxxHOLiC』(2022)では、蜷川実花監督が描く濃厚な極彩色の世界のなかで「とにかく格好よくいてくれ」といわれて演じた百目鬼静(どうめきしずか)。同作では弓の使い手としての説得力、動じない男としての佇まい、女性が夢みる格好よさをさらりと体現した。
そして声優に挑戦した『すずめの戸締まり』を観て驚く。声だけでハンサムなのか! という発見と、アクションシーンでの「うぐぅ」みたいな息遣いなど、声での表現が実に豊かだったから。アニメーション作品のなかでも、新海誠監督の作品で、声優の果たす役割は極端に大きい。声の強弱やスピードなど、聞く人が「気持ちいい」と思う声の響かせ方のツボを外さない。初めての挑戦にして、百戦錬磨の神木隆之介らと並んでも遜色ない。この作品で松村は、米アニー賞声優賞にノミネート。それはたった一作で多くを吸収して自分のものにする、俳優としての松村の強みが世界で認められた証でもあった。
昨年公開された映画『キリエのうた』では、プロの俳優とは異質のパワーを画面にぶつけるアイナ・ジ・エンドの存在をナチュラルに受け入れ、岩井俊二監督の描く世界にもすっと馴染みながら俳優としての確かな進化を画面に刻んだ。この人はどんな作品のどんな役であっても、「SixTONESのメンバーの」といった肩書が跡形もなく消えてなくなる。
~以下、映画『夜明けのすべて』の詳細に触れています~
そして、現在公開中の『夜明けのすべて』。監督は『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱。ダブル主演として松村と上白石萌音の名前が並べば、朝ドラにハマらなかった人でも、“ああ『カムカム』のコンビね”と頭をよぎるかもしれないが、この映画に“稔と安子”の気配は1ミリもない。映画の冒頭、上白石演じるPMS(月経前症候群)に悩まされるヒロイン・藤沢さんの日々が描かれ、その生きづらさを観客は体感する。基本的には真面目で周囲に気を使う性格なのに、その時期がくるとイライラが抑えきれなくなり、仕事を続けることが困難な状況に陥る。三宅監督は説明ゼリフなしに血肉の通った丹念なエピソードの積み重ねで描き、そんな藤沢さんの物語に観客は一気に感情移入していく。 そんな彼女の前に現れるのが、松村演じる山添くん。藤沢さんの勤務先の同僚だが、松村はいつにも増して青白く、体温が低そう。仕事をする様子にやる気は見られず、周囲に心を閉ざし、ちらっと見下すような気配もあって、なんとなく感じが悪い。『すずめの戸締まり』であれほどハンサムに響いた声が、感情の起伏がのらないようなしゃべり方で、まさに別人。