最高検「袴田さん弁解に十分耳を傾けず」 再審無罪で検証結果公表 静岡県警も、「初動捜査不徹底」
現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で死刑とされた袴田巌さん(88)の再審無罪が確定したことを受け、最高検は26日、主に再審請求審が長期化した要因に関する検証結果を明らかにした。静岡県警も同日、事実確認の結果を公表した。当時の取り調べについて最高検は「袴田さんを犯人と決めつけたかのように自白を求め、弁解に十分に耳を傾けたとは言えない」とした。県警も「任意性が否定される態様で不適正」と捉え、弁護人の接見を録音したことも「重大な違法」と結論づけた。一方、無罪判決が断定した三つの証拠捏造(ねつぞう)については認めていない。最高検は「現実的にあり得ない」とした。 袴田さんが再審を請求してから、無罪判決が確定するまでに58年がかかった。このうち第2次再審請求審で2014年、袴田さんに再審開始決定が出されたことに対し検察は不服を申し立て、23年に再審開始が確定するまで結果として9年が費やされた。審理を長引かせたとの批判があるが、最高検は「(再審開始決定の)科学的に誤った判断を是正するために必要かつ相当で問題はない」とした。 事件では、1年2カ月後に現場のみそタンクでシャツやズボンなど「5点の衣類」が見つかり、袴田さんの犯行着衣とされてきた。しかし、9月26日の静岡地裁の再審無罪判決は5点の衣類と、ズボンの共布を捜査機関の捏造(ねつぞう)と認定。また、検察官が手がけた自白調書も「警察官との連携による非人道的な取り調べで作成され、実質的な捏造」と踏み込んだ。 県警は、タンク内の初動捜査が不徹底だったとして「真摯(しんし)に受け止める必要がある」と教訓に位置づけた。その上で「捏造をうかがわせる具体的な事実や証言を得られなかった一方で、捏造が行われなかったことを明らかにする具体的な事実や証言も得られなかった」と報告した。 最高検は、無罪判決の捏造判断を「合理的な根拠を欠いていると評価せざるを得ず、客観的事実関係と矛盾する」と強く反発した。 確定審で裁判所に提出してこなかった証拠の開示を巡り、最高検は2010年までは「現在の視点から見れば消極的な対応だった」としつつ、当時は通常審でも証拠開示制度がなかったため問題ないと説明。弁護団に「存在しない」と回答したネガフィルムや取り調べ録音テープが後日、発見されたことについては、最高検も県警も「保管や把握が不十分だった」として適正管理の対応策を示した。
静岡新聞社