米大統領選2016(下)予備選は“歴史的”接戦? オバマ政権とは何だったか
半世紀以上ぶりの歴史的混戦の可能性
このように、共和・民主いずれの党の状況もまだ、流動的です。民主党の方では最終的に組織や資金で勝るクリントンの勝利を期待する声も少なくないのですが、共和党の方は最後までかなりの混戦となるという見方もあります。予備選段階は言うまでもなく、7月の党大会に出席し、各候補に投票する代議員を決める段階ですが、共和党の方は、予備選結果を確認する党大会での第1回代議員投票で、1人の候補者も過半数の代議員を獲得できない「ブローカー・コンベンション」の可能性も指摘する識者の声もあります。 もし、ブローカー・コンベンションになった場合、予備選で振り分けられた代議員が自由に投票できることになり、2回目の代議員投票に向けて党大会内で票を奪い合うこととなります。 ブローカー・コンベンションは1948年、民主党では1952年以来なく、「それまでの予備選での戦いは何だったのか」「民意はどこに」ということになってしまうほか、党の分裂が非常に目立つこととなります。48年の共和党候補(デューイ)も52年の民主党候補(スティーブンソン)も敗退しています。そうならないために、連載第1回目で指摘したように、共和党では「トランプ降ろし」が続いてきたともいえますが、党をまとめるような中道のブッシュやケーシックらが振るっておらず、ティーパーティ運動と密接なクルーズに託するのは、躊躇する声もあります。
本選挙の行方、そして「オバマ」
さらに、予備選の先の本選挙の展開も考えてみます。共和党側の混乱の中で民主党有利という声がありますが、そうとばかりは言えません。あくまでも可能性は高くないかもしれませんが、保守派が嫌がるトランプが共和党の指名を獲得した場合、本選挙では「隠れリベラル」としてより広い層に訴えることができるかもしれません。既に「トランプ・デモクラット」(トランプを応援する民主党支持者)という言葉も生まれており、民主党候補と激しい戦いとなるのは必至です。 そもそも3期同じ政党から大統領が選ばれるケースはまれであり、特にクリントンの場合はオバマ政権1期目の中心閣僚であったため、オバマ政権との継続性をどのように訴えるかが大きなポイントとなります。 そのオバマ大統領に対するアメリカ国民の見方は複雑です。各種世論調査によると、就任直後は6割から7割の国民がオバマを支持しましたが、その数字は減り続け、就任後約1年後には支持と不支持が4割程度で並ぶこととなります。その後は、支持と不支持率がほぼ4割台後半で長期的に拮抗し、現在に至っています。このような支持率の推移は、継続的な大統領世論調査が始まったトルーマン政権移行、初めてです。 さらに党派別にみてみると、民主党支持者のオバマ支持は8割程度と全く落ちていません。共和党支持者は就任当初こそ支持率は4割程度でしたが、就任後半年くらいに10%台となり、ここ数年は1ケタ台も記録しています。つまり、オバマは極めて党派性の強い大統領であり、右と左のアメリカがはっきり分かれる「政治的分極化」の時代をまさに体現しているのです。