2025年 話題の展覧会をピックアップ①【西洋美術編】
ついに2025年がスタート! 昨年は海外のコレクションを紹介する展覧会が比較的少ない印象でしたが、今年はミロやゴッホの個展やオルセー美術館の印象派コレクションを紹介する展覧会など、“来日もの”も充実。ほかにも、知られざる画家ヒルマ・アフ・クリントの大回顧展や、アボリジナル・アーティストを紹介する企画、さらには古代エジプト関連の展覧会まで楽しみな展覧会がいっぱい。今年も存分にアートを楽しみましょう! 【全ての画像】2025年 話題の展覧会【西洋美術編】 ※各展覧会の会期等は変更になる可能性があります。詳細は各展覧会の公式HPなどでご確認下さい。 わずか25年という短い人生、さらに活動期間はたった6年という短い画業のなかで、モノクロームの背徳的な作品を数多く残した画家、オーブリー・ビアズリー。『異端の奇才――ビアズリー』(三菱一号館美術館:2月15日~5月11日、久留米市美術館:5月24日~8月31日 、高知県立美術館:11月1日~2026年1月18日)は、日本では25年ぶりとなる彼の回顧展だ。イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が所蔵する世界有数のビアズリー・コレクションの150点を含む約220点を展示。彼の大出世作品となったオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』の挿絵はもちろん、過去最大級となる約50点の直筆の素描も展示。ダイナミックさと繊細さをあわせもつビアズリーの洗練された作品世界を存分に味わうことができる。 ピカソやダリとともに、スペインを代表する画家、ジュアン・ミロ。東京都美術館で開催される『ミロ展』(3月1日~7月6日)は、日本では画家の没後最大規模となる回顧展。1920年代、故郷のカタルーニャから前衛芸術花盛りだったパリへ渡ったミロは、時のシュルレアリストたちに注目され時代の寵児に。しかし、1936年のスペイン内戦勃発に伴い、各地を転々とすることとなる。同展では、ミロが戦火を逃れながら描き、彼の最高傑作ともいわれる〈星座〉シリーズのうち《明けの明星》など3点が来日。他にも若き日の小品から最晩年の大作まで、およそ100点の作品でミロの芸術世界を展観する。 カンディンスキーやモンドリアンに先駆け、20世紀初頭に膨大な抽象絵画を残していたスウェーデンの女性画家、ヒルマ・アフ・クリント。2018年から19年にかけてニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された展覧会が同館史上最大の60万人を動員するなど、21世紀に入って一気に世界的に注目を集める画家となった。東京国立近代美術館で開催される『ヒルマ・アフ・クリント展』(3月4日~6月15日)は、そんな彼女の作品を紹介する日本で初めての展覧会。カンディンスキーの1910年、モンドリアンの1912年よりも早い1906年から抽象絵画を描き始めた彼女の代表作群「神殿のための絵画」を中心に画家の制作の源泉を探るとともに、画業の全貌を明らかにする。展示される約140点の作品は、すべて初来日の作品。 アメリカ西海岸で最初期にヨーロッパ古典絵画の収集を始め、3万2000点の作品を収蔵するサンディエゴ美術館。『西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館』(国立西洋美術館:3月11日~6月8日、京都市京セラ美術館:6月25日~10月13日)では、国立西洋美術館とサンディエゴ美術館、2館の作品合計88点を組み合わせて展示。フランス革命機に活躍した女性画家の作品や、バロック期の静物画など、作品をテーマごとに比べながら、ルネサンスから19世紀末までの美術の歴史を珠玉の名品とともに辿っていける。また、現存作品がわずか30点ほどというルネサンスの画家、ジョルジョーネの作品も見逃せない。 現代美術の世界では地域独自の文脈をきちんと捉え、再考する動きが進んでいる。この流れに呼応し、改めて注目されているのがオーストラリア先住民によるアボリジナル・アートだ。オーストラリアの現代美術界では、アボリジナルを出自の背景とする女性作家が多数活躍。アーティゾン美術館は、継続的に彼女たちの作品を収集してきた。『オーストラリア現代美術 彼女たちのアボリジナル・アート』(アーティゾン美術館:6月24日~9月21日)では、所蔵作家4名を含む7名と1組の作品から、女性のアボリジナル・アーティストによる多様な表現を紹介していく。オーストラリア先住民美術への深い理解や認知を目指す、興味深い展覧会だ。 2023年、2024年に相次いで開催されたモネ展、マティス展のように、2025年はゴッホの展覧会が立て続けに開催される。『ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢』(大阪市立美術館:7月5日~8月31日、東京都美術館:9月12日~12月21日、愛知県美術館:2026年1月3日~3月23日※予定)は、ゴッホの死後、家族たちがしっかりと守り、残した「ファミリーコレクション」に光を当て、ゴッホの弟テオや、その妻ヨー、その息子ウィレムらの強い『想い』を紹介していく。ゴッホの描いた作品30点以上に加え、日本初公開の手紙などゴッホ家のコレクションを紹介。作品とともに、家族の強い愛も感じられる、心も温まる展覧会になりそうだ。 その規模の大きさから、2期にわたって開催される『大ゴッホ展』(神戸市立博物館:9月20日~2026年2月1日、福島県立美術館:2026年2月21日~5月10日、上野の森美術館:2026年5月29日~8月12日)では、熱烈にゴッホの作品を愛し、精力的に収集した女性、ヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションをもとに、初期のオランダ時代から、傑作が多数生まれたアルル時代までのゴッホ作品約60点、そしてモネやルノワールなど同時代の印象派作品を展示する。クレラー=ミュラーは1908年からゴッホ作品のコレクションを開始。1913年から海外巡回を含めて一般公開するなど、ゴッホの評価を後押しした人物だ。第1期「夜のカフェテラス展」では庶民の労働などをテーマとしたオランダ時代、印象派に魅了され色彩が花開いたフランス時代の作品を中心に展開する。なお、第2期「アルルの跳ね橋展」は2027年以降に開催される。 モデルで画家の母親シュザンヌ・ヴァラドンのもとに生まれた画家、モーリス・ユトリロ。10代でアルコール依存症と診断を受け、治療のために絵を描き始めたユトリロは、画風を変遷させながらも20世紀初頭のパリの風景を描き続けた。没後70年を記念し、SOMPO美術館で開催される『モーリス・ユトリロ展』(9月20日~12月14日)は、パリ・ポンピドゥーセンター所蔵の10点が来日し、国内美術館所蔵品を含む約60点で構成される回顧展。画家の絶頂期と評価され、人気の高い「白の時代」はもちろん、絵を始めたばかりの「モンマニーの時代」、鮮やかなが画面に広がる「色彩の時代」の作品も紹介。詩情豊かな画家の全貌に迫っていく。 国内ではおよそ10年ぶりとなるオルセー美術館の印象派コレクションを紹介する展覧会『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』(国立西洋美術館:10月25日~2026年2月15日)のテーマは「室内」。郊外や都市の風景を積極的に描いていた印象派の画家たちは、じつは「おうち時間」を描くのも大得意。モネやルノワール、セザンヌらは積極的に室内をモチーフに作品を描いていた。同展は、室内をテーマにしたオルセー美術館所蔵の作品68点を中心に、国内外の重要作品も加えて約100点で構成される。注目の作品は初来日となるエドガー・ドガの《家族の肖像(ベレッリ家)》。また、印象派成立に強く関わりながらも、28歳で戦死してしまった画家、フレデリック・バジールの作品も展示予定だ。 2025年は古代エジプトをテーマにした展覧会やイベントも多数開催される。そのひとつ『ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト』(森アーツセンターギャラリー:1月25日~4月6日、静岡県立美術館:4月19日~6月15日(※予定)、豊田市博物館:6月28日~9月7日)は、アメリカ最大規模の古代エジプト美術コレクションを誇るニューヨークのブルックリン博物館のコレクションから、彫刻やレリーフ、棺、宝飾品、土器やパピルス、さらには人間のミイラやネコのミイラまで、ブルックリン博物館の貴重なコレクション約150点が来日。これまでのエジプト展ではあまり注目されてこなかった当時の人々の暮らしにも着目し、高度な文化を創出した古代エジプトの人々の日常を、つぶさに紹介していく。いま注目を集める気鋭のエジプト考古学者で名古屋大学高等研究院准教授の河江肖剰が監修を務め、最新技術を使ったピラミッドの研究成果もふんだんに盛り込まれている。 エジプト第19王朝のファラオで、エジプト各地に数多くの巨大建造物を築いたラムセス2世。彼は、世界初の平和条約「エジプト・ヒッタイト平和条約」を締結するなど、外交面でも精力的に活動していたことも知られている。ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyoにて開催される『ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金』(3~9月予定)では、棺や宝飾品、マスクなどの遺品はもちろんのこと、ラムセス2世が活躍したエジプト世界を体感できる没入型展示も大きな特徴。アメリカやフランス、オーストラリア等で開催され、大好評だった展覧会で、今回がアジア初上陸となる。 文:浦島茂世