平岩紙は“真面目さ”を使い分ける俳優だ! 『新宿野戦病院』『虎に翼』で体現する女性像
現在放送中の『新宿野戦病院』(フジテレビ系)は、コメディのようなゆるっとした雰囲気でありながら、現代社会にはびこる様々な問題を鋭い切り口で取り上げている。それでも重苦しくならないのは、ヨウコ(小池栄子)のちょっとふざけたようなアメリカンな振る舞いや、享(仲野太賀)のチャラさといった、キャラクターたちの愛嬌のおかげだろう。そんな中で、いつも何かと不機嫌で全体をピリッとさせているのが、平岩紙演じる高峰はずきという存在なのである。 【写真】『虎に翼』桂場(松山ケンイチ)にあんこの出来を見てもらう梅子(平岩紙) はずきは聖まごころ病院の3代目院長・啓介(柄本明)の娘で、病院のソーシャルワーカーをしている。聖まごころ病院への思い入れが強く、病院を継ぐために外科医を志したものの5浪の末、断念。それでも夢は諦めておらず、現在は外科医と結婚して聖まごころ病院の後を継ぐことを目指して婚活に励んでいる。 しかし、そんな中やってきた医師のヨウコ(小池栄子)は、実は自分と腹違いの姉妹という事実が発覚。もともと医師家系に生まれたのに医師になれなかったことに引け目を感じていたはずきにとって、聖まごころ病院でバリバリ活躍するヨウコの姿はコンプレックスを強く刺激するものだっただろう。 しかも、自分が生まれた頃に父が不倫していたという事実と向き合わなければならなくなったのだ。はずきの心の中の葛藤を思うと、いつも怒っているような様子なのも仕方ないと思えてしまう。それでも投げ出さず、第6話ではヨウコと酒を酌み交わして“姉妹”として腹を割って話そうと第一歩を踏み出そうとした。きっとはずきは誰よりも真面目なのだろう。
『虎に翼』では“母親”としての芯の強さを体現した平岩紙
平岩は、演じるキャラクターの真面目さを様々な方法で表現してきた。現在放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』では、主人公である寅子(伊藤沙莉)の大学時代の友人・梅子として出演している平岩。梅子は弁護士の夫と、子供の親権を得た上で離婚したいと考え、明律大学で法律を学ぶことを決意。寅子たちとともに学びながらも年下の彼女たちをさりげなくフォローしたり、励ましたりしていた。 平岩はこの時の梅子を、真面目さに優しさを混ぜ合わせて、よく笑い、どんな時でも明るく、強い女性として演じてみせた。しかし、家族のために心を砕いてきた梅子の思いは家族には伝わらず、梅子は離婚や親権どころか、夫が亡くなった後の財産も満足にもらえなかった。梅子の状況は傍から見ても悲惨だったが、その目は光を失っておらず、これから必ず自分の力で生きていくんだという決意に満ちていた。この時の梅子は真面目さと負けん気を持ち合わせていたと言っていいだろう。 ふたたび「東京編」として舞台を新潟から東京へ移した『虎に翼』で梅子はなんと、手伝いをしていた甘味処 「竹もと」で菓子職人見習いとなっていた。常連の桂場(松山ケンイチ)にあんこの出来を見てもらっている梅子は、大学時代とも家族といた時とも違う緊張感を漂わせていた。 2度目の再登場となった梅子は、その真面目さを生かして職人の道を極めようとしているのだ。このように、平岩は、梅子本来の温かさはそのままに、真面目さの中にある微妙な違いを繊細に演じ分けている。 さて、“真面目さ”の視点で見ると『新宿野戦病院』のはずきには素直さ、真っ直ぐさも感じる。自己肯定感が高いわけではないが捻くれてはいないし、ヨウコの出自の秘密がわかっても意地の悪いことはしない。むしろ誰にでも真正面からぶつかっていこうとしている。だから聖まごころ病院に多い、わざとヘラヘラして真剣さがないように見せる人もはずきの前では居住まいを正すのだ。聖まごころ病院全体の手綱を握っているのは、もしかしたらはずきなのかもしれない。
久保田ひかる