なぜ妻に先立たれた76歳・元大学教員宅は「ゴミ屋敷」へ変貌を遂げたのか。断捨離が自力でできるのは60代前半までと心得て
厚生労働省の発表によると、成年後見制度の利用者数は2022年末時点で約24.5万人とのこと。また、この利用者数は年々増加の傾向にあるようです。そのようななか「家族がいても『1億総おひとりさま時代』に生きていることを認識していますか?」と問いかけるのはOAG司法書士法人 代表司法書士の太田垣章子先生。その太田垣先生いわく「一戸建てを購入したり建てたりする際、将来的に夫婦ふたり、もしくはひとりで住むことを想定する人はいるでしょうか?」とのことですが――。 司法書士の立場から「おひとりさまリスク」を解説!太田垣章子『あなたが独りで倒れて困ること30』 * * * * * * * ◆生活スペースが最小限になるなどいろいろなことが面倒になりゴミも溜めがちに 一戸建てを購入したり建てたりする際、将来的に夫婦ふたり、もしくはひとりで住むことを想定する人はいるでしょうか? 基本は今、家族で住むために一戸建てを選ぶ人が大半だと思います。 ところが月日が流れると、家族構成も変わってきます。そうなると必然的に、使わない部屋も増えてきます。 よくあるのが、高齢になり膝が痛くなって、寝る部屋を1階に移したら、2階には何年も上がっていないという話。1階にあるキッチンやトイレ、バスルームといった設備が生きるのに必要なものなので、それが揃っているエリアだけで生活が成り立つというのです。 特に男性にその傾向が強く、広い一戸建てであっても、結局のところ水回りと寝るスペースだけで過ごしている、私もそんなケースをたくさん見てきました。
◆譲さんのケース 譲さん(仮名・76歳)もその中のひとりです。 一人住まいになって、15年以上になりました。奥さんが長年の闘病の末に亡くなってから、嫁いだ娘二人も家に近づかなくなってしまいました。 その理由は二つ。 一つは、昭和スタイルの「誰の金で生活できてきたと思っているんだ」的な態度を、この令和の時代に妻ではなく娘たちにしてしまい、彼女たちから敬遠されてしまったこと。 二つめは、譲さんの家が片付いておらず、それを娘たちに見られたくなくて、娘たちを自分から遠ざけてしまったこと。 これらに加えて、娘さんたちも子育てに忙しく、最近では、娘家族たちとは年に数回、外で食事をするだけになってしまっていました。 譲さんは、大学で建築を教えていました。そのため家の中にはたくさんの本や資料があり、それらが山のように積まれているため、今にも崩れ落ちそうです。 傍からすると、その資料っていつ見るの? 捨てても良いのでは? と思ってしまいますが、譲さん自身は「どこにどの資料がある」か、ちゃんと分かっています。捨てるという選択肢がないため、どんどん床が見えなくなってしまっていました。 さらに、ゴミを分別して捨てるのが面倒なため、どんどん家中に溜まっていくのです。これはゴミ屋敷にありがちな状況です。ゴミを出すにしても、家の前に出すのがルールなため、ある程度、出せる時間が限られてしまいます。 つまり、あまり早く出しすぎると、カラスにいたずらされたりする可能性があり、ご近所の方は大きなゴミバケツに入れて出しているのですが、収集が終わった後、そのゴミバケツは片付けなければなりません。譲さんは、どうしてもそれが面倒なのです。 そのまま出しっぱなしにしていたら、ゴミが取り除かれて軽くなったバケツが風で倒され、かなり遠くまで転がっていってしまったこともありました。その時は、ご近所の方がバケツを譲さん宅に戻してくれましたが、大きな張り紙で「きちんと管理してください」と書かれてしまいました。 その一件以来、譲さんはゴミをそのまま出すようにしたのですが、そうするとゴミをカラスに散らかされてしまって、またご近所からクレームを受けるというマイナススパイラルに陥ってしまいました。 こうしたゴミ出しのストレスを避けることが、結果として家の中のゴミを溜めてしまうことに繋がったのです。 ここまで来てしまうと、家の中がこの先片付いていくことはなく、ただただゴミは増えるだけになってしまいます。 いちばん良いのは、業者にお金を払って処分してもらうことなのですが、ゴミ屋敷にしてしまった人の大半はそれを人に知られたくないのです。そのため不衛生な状態が続いていながら、ゴールが見えないという状況に陥ってしまいます。
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