約100年前にベーブ・ルースも罹患した感染症の教訓…選手の命も奪われマスクをつけて野球をした時代から学ぶもの
そして、当時の野球ファンに最も衝撃を与えたのが、1917年のワールドシリーズでチーフ審判を務めたシルク・オラフリンが死亡したことだったという。オラフリンは、1902年からア・リーグの審判になり、ワールドシリーズの審判も5回担当した。確かな資料はないけれども、判定を声で知らせるだけでなく、腕や手の動きも使った最初の人物ではないか、という説もある人物だ。当時46歳だったオラフリンは、オフシーズンの12月に亡くなったので、野球の試合で感染したとは考えにくいのだが、今回の新型コロナには、基礎疾患を持つ人や、高年齢者が重症化するという危険性がある。 20代から30代が多い健康な選手よりも、年齢の高い首脳陣や審判団が感染した場合は、重症化するリスクがある、ということになる。 米国では、昨年7月に独立リーグでロボット審判が導入された。今回、審判への感染を防止するため、メジャーリーグにもロボット審判が登場か、ともささやかれている。 スペイン風邪の流行が始まった1918年はベーブ・ルースがレッドソックスで最後にワールドシリーズ優勝を果たしたシーズンである。その年の5月、実は、ベーブ・ルースもスペイン風邪に罹患したと言われている。今のように陽性かどうかを判定するシステムはなかったから、スペイン風邪だったかどうかは判定できないが、高熱や体の痛みなどの典型的な症状が出たという。 トレーナーはルースに薬を与えだが 、投与量を間違えたためか、さらに症状が悪化し、ルースは病院へ運びこまれた。ルースは死の床にあるとの噂さえ流れたが、5月30日になって試合に復帰している。
この年、第一次世界大戦の影響を受けてシーズンは短縮されたが、スペイン風邪もシーズン短縮の一因と言われている。今年、3月24日に発売された「WAR FEVER」という書籍には、スペイン風邪を予防するように警告されていたにもかかわらず 、レッドソックスとカブスが戦ったワールドシリーズには大勢の観客がつめかけたことが記されていて、スペイン風邪の感染拡大と死者の増加につながったとも書かれている 「密集」「密接」の状態からクラスターが起きたのだろう。当時、23歳だったルースはスペイン風邪から回復し試合に復帰したが、皮肉にも、その人気から球場をお客さんでいっぱいにして感染を拡大する一因になったのかもしれない。 現在、メジャーリーグ機構は、開幕に向けて必死に策を練っているが、この100年前の愚かな過ちを繰り返してはならない。選手やファンの不安を置き去りにし、お金儲けにだけ走る強行開催で、ルースに呪われないようにと願う。天国にいるルースは、後輩たちが、どんな決断を下すのか、見守ってくれているだろうか。 (文責・谷口輝世子/米国在住スポーツライター)