中国との差が際立つインド株の強さ:インド投資にも政治リスク
中国からインドへのシフトが続く
インド株の強さが続いている。MSCIインド指数は、2019年末から足元まで2倍を超える大幅上昇となり、米国のハイテク株中心のナスダック総合指数の上昇幅を上回っている。インド株の堅調ぶりは、この間に3割程度下落しているMSCI中国指数と対照的だ。 インドと中国の株式市場のパフォーマンスの差は、地政学リスクの差に加えて、経済環境に根差している面がある。中国経済は不動産不況のもとで低迷を続けている一方、インドの今年1-3月期の実質GDPは前年同期比+7.8%増と、主要国の中で成長率が最大となった。 両国の成長率の差を生み出す要因の一つに人口構成もあり、これも株式投資先の判断に影響を与えているだろう。インドの平均年齢(中央値)は28.6歳と、中国の39.5歳よりもかなり若いことが同国への投資の魅力を高めている。 また、両国の経済・産業政策の違いも、投資判断に大きな影響を与えている。中国政府は近年、企業への統制強化を強めており、これが民営企業の活動を委縮させている面があるだろう。例えば、政府による強い統制を受けた中国の電子商取引大手アリババグループの現在の時価総額は、2020年のピーク時から約4分の1にまで減少している。 これに対して、インドのモディ首相が主導する経済改革路線、特に海外企業の現地生産への補助金支給など外国投資の促進策は、海外投資家あるいは海外企業から評価されている。またモディ政権のもとで、従来遅れているとされたインフラの整備が進み、輸送物流の改善が見られた。これが、テクノロジー産業の集積地としてのインドの魅力を高め、最近のアップルによるインドでの生産拡大に向けた大規模追加投資につながっている。中国の政治・経済リスクが高まる中、サプライチェーン(供給網)の中国からのシフトも進んでいる。
浮上する経済改革路線の後退リスク
そうした海外企業、海外投資家が懸念するのはインドの政治リスクだ。外国人投資家はインド株を2023年には210億ドル(約3兆3,000億円)買い越したが、今年に入ってから、特に5月以降は売り越しに転じた。これはインドの総選挙でモディ首相が再選を果たすかどうか、懸念が生じたためだ。実際には6月4日の開票で、モディ首相率いる与党連合が過半数を維持し、首相が3期目も続投することになった。 しかしこの選挙結果を受けて、モディ政権がこれまでとは違い、不安定な政権運営を余儀なくされることも明らかになったのである。モディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)は議席を大幅に減らし、単独での過半数を維持できなかった。また、連合を組む各保守政党も議席を減らした。 このことは、モディ首相が進める経済開発推進策から取り残された地方の人々が、反モディ勢力として確実に影響力を強めていることを裏付けた。金融市場には、1990年代の脆弱なインドの連立政治の記憶が蘇っている。 今後は、モディ首相は製造業の強化を目指す土地・労働改革法案の成立に苦労する可能性が出てきた。また、インフラや投資を重視した予算配分が、社会保障制度の拡充に充てられるように圧力を受ける可能性がある。これは、経済改革路線の後退と海外投資家や海外企業には受け止められるだろう。 結局は、他の新興国への投資と同様に、政治の不安定性が、海外投資家、海外企業がインド投資を拡大する上での無視できない障害となってきている。 (参考資料) "India Beats China in Stock Performance(インド株の強さ、中国株を圧倒)", Wall Street Journal, June 20, 2024 "India's Election Proves Many Wrong About Modi(インド総選挙で見えたモディ氏の経済失政)", Wall Street Journal, June 6, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英