記者が振り返るセンバツ 期待に応えた明商4強 強烈投打で劇的サヨナラ /兵庫
<センバツ高校野球> 3年ぶり2回目の出場となった今年の選抜高校野球大会で、初の4強入りを果たした明石商。2年生エースの中森俊介投手は全4試合に登板して好投し、同じく2年の来田涼斗外野手は2本塁打を放つなど、持ち味のフルスイングでチームに大きく貢献した。全国の高校野球ファンに強烈な印象を残した明石商ナインの「甲子園」を振り返る。【黒詰拓也】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 3月31日の智弁和歌山との準々決勝。来田外野手のこの日2本目のソロによる劇的なサヨナラ勝ちに、一塁側アルプス席の応援団は狂喜し、涙を流す人の姿も見られた。誰もが「これで勢いに乗った」と思ったに違いない。 ただ、狭間善徳監督は反省していた。初戦からの試合を振り返ると、不安な点も多かった。確実な攻撃と堅守が身上なのに、バント失敗が目立ち、守備でも失策や記録に残らないミスが目立った。浦井佑介部長も「派手に勝っているが心配だ」と話していた。 不安は準決勝の東邦(愛知)戦で的中した。四回の無死二塁の好機をバント失敗などで逃し、1点差に迫った直後の八回の守りでは、重殺を狙ったトリックプレーで送球エラーが連続し、追加点を許した。追い上げムードをミスで帳消しにしてしまった。 収穫も大きかった。昨秋の公式戦9試合ではチーム本塁打が2本と長打力不足を指摘されたが、センバツの4試合で計5本と打線のパワーアップを証明。奪った四死球は25と選球眼の良さも示した。中森投手は大分との2回戦で「連投を見据えて全力ではなかった」と言いながらも、自己最速の147キロを記録。大器ぶりを見せつけた。 ◇敗因のミス自覚 狭間監督はミーティングを「真剣勝負の場」と語る。試合に負けた後は、敗因となったミスをはっきりと当事者に指摘する。「子どもたちには将来がある。『まあええか』で終わらせれば上達しないし、人間としても成長しない」 対戦相手が決まると、狭間監督は寝る間を惜しんで相手を研究した。準々決勝で勝った後の睡眠時間はわずか2時間だった。「今起きんかったら、いつ起きんねん」と睡魔に負けそうになる自分を奮い立たせたという。なぜそこまでやるのか。「子どもたちに勝たせてやりたいから」と話してくれた。「毎日つらいことを積み重ねて得た達成感や感動を味わってほしい。野球はそのための手段の一つ」と狭間監督は語る。 狭間監督が悲しい表情を見せた時があった。22歳で交通事故で他界した明石商野球部OBの飯田亮介さんについて語った時だ。2月26日の卒業式直後、巣立っていく部員たちに「失敗も挫折もあるだろうが、命だけは大事にしてほしい」と静かに話した。グラウンド横には飯田さんの名前が記された棚がある。 ◇新たなステージ 1月25日の出場決定以来、ほぼ毎日、学校へ通った。高校時代に野球部だった自分自身の若かりし姿を投影しながら、毎日少しずつ成長していく選手たちを取材するのが楽しみだった。コーチ陣の奮闘、部員を支える卒業生や保護者の姿も見てきた。 その明石商が前回出場時の8強を越え、4強という新たな「ステージ」に進んだことは感慨深い。市民や関係者の期待に応えてみせた「明商(めいしょう)ナイン」に、改めて拍手を送りたい。 ……………………………………………………………………………………………………… ■明石商の今年のセンバツ成績■ 1回戦 ○7-1 国士舘 2回戦 ○13-4 大分 ▽本塁打=岡田(1)(二回)、中森(1)(四回) 準々決勝 ○4-3 智弁和歌山 ▽本塁打=来田(1)(一回)、来田(1)(九回) 準決勝 ●2-4 東邦 ▽本塁打=安藤(2)(八回) ※本塁打の(1)はソロ、(2)は2ラン 〔神戸版〕