日本でインプラント治療が多い本当の理由「1本50万もする自由診療の背景には…」
歯を磨いても むし歯は防げない #2
歯を失った際の再建方法として選ばれる「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」。今の日本では、新しい選択肢としての「インプラント」が注目を浴びているが、実はデメリットも多くあると、日本歯周病学会認定医の前田一義先生は警鐘を鳴らす。なぜ日本では「インプラント」が受け入れられているのか。 【画像】現役の歯科医師がおススメする、「歯が抜けたら…」 その背景を論じた『歯を磨いても むし歯は防げない』より一部抜粋、再編集してお届けする。
「歯が抜けたらインプラント」はアメリカ流
むし歯や歯周病などで歯を失ったときの再建方法として、現在は「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」の3種類あります。 このうちインプラントは、「食べる」という点で入れ歯より優れています。同様にブリッジも「食べる」という点で入れ歯より優れています。 ではインプラントとブリッジのどちらがいいかというと、私は基本的にブリッジをお勧めしています。 ブリッジは、失った歯の両横の歯を削り、これらを土台に人工歯を支えるというものです。両横の歯と人工歯の3本で一体となるイメージです。入れ歯のように取り外す必要がなく、違和感が少ないのが特徴です。 ブリッジがインプラントより優れているのは、噛む力を自分でコントロールできることです。これは人工歯を支える両横の歯が、自分の歯だからです。 人間の歯は、繊細なセンサーの役割も果たします。たとえば食べ物の中に砂が入っていたら、すぐに「何かある」とわかります。そこで「噛むのを瞬時にやめる」ことができます。食べ物に応じて、噛む力もコントロールできます。 一方、インプラントの場合、歯と違って歯根膜がないので、このコントロールができません。人工歯はセンサーのような役割を果たせません。 インプラントは、たとえるなら義足や義手のようなものです。たしかに義足や義手でも歩いたり物を持ったりできますが触覚はなく、微妙な力加減は難しいところがあります。 インプラントも、これと同じです。 もちろん、ブリッジにもデメリットがあります。健康な歯を削らねばなりません。とはいえ「自分の歯に近い」という点で、ブリッジのほうが優れています。 ブリッジは自分の歯で人工歯を支えるので、多くの歯を失った人には適さないとされていました。 ところがイエテボリ大学のヤン・リンデ名誉教授が、歯がたくさん抜けた人でも、残った歯をそれぞれブリッジでつなげることで人工歯を支えられる「フルブリッジ」という方法を実用化されています。 インプラントを選ぶかどうかについては、その国の考え方が表れている気もします。 たとえば、アメリカはスウェーデンと逆です。アメリカではむし歯や歯周病が進行すると、すぐに抜歯してインプラントにすることを勧めます。一方、ヨーロッパはインプラントではなく、自分の歯を修復しつつ、長く使おうとします。 同じことが建物にもいえ、ヨーロッパでは昔の街並みをできる限り残そうとします。戦乱で街が破壊されても、壊れた建物を修理しながら、できるだけ長く使いつづけています。 一方アメリカは、もともと古い街並みが存在しません。だから、ダメになったものは、どんどん壊し、より新しくいいものをつくろうとします。 日本は歴史こそありますが、アメリカに倣う傾向があります。少なくとも歯については、古いものを大事にしながら、長く使い続ける発想ではないように思います。