「政商」マスク氏、異例の権力を手中に トランプ次期政権の決定に再三介入
ライバルとの電話にも同席
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、マスク氏がトランプ氏の耳元にさまざまな助言をささやける地位を手にしたことで、「民間人として前例のない力を得ている」と指摘。マスク氏は、生成AI(人工知能)「チャットGPT」を手掛けるオープンAIやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コムといったハイテク企業のトップとそれぞれに確執を抱えており、マスク氏の強力な立場が各社の脅威となっていると報じた。
この懸念は実体として現れつつある。グーグルのピチャイ最高経営責任者(CEO)がトランプ氏に当選祝いの電話をした際に、マスク氏が参加したと報じられた。生成AIの新興企業を率いるマスク氏は、グーグルと競合関係にある上、グーグルの生成AIや検索サービスが左派に偏った内容を表示していると批判してきた。マスク氏がトランプ氏の腹心さながらに会話に入ってきたことで、ピチャイ氏の心中は穏やかではなかっただろう。 トランプ次期政権人事への「介入」もみられた。財務長官の選考課程で、最終的に指名された投資家とは別の人物を選ぶよう、マスク氏は公然と働き掛けた。トランプ氏が検討している最中に口を出した格好で、そうした自由な振る舞いが許されているという特別な立場を誇示するようだ。通信や放送を規制する連邦通信委員会(FCC)のトップなど他の人事でも、マスク氏に有利となる人材が選ばれているとの見方が出ている。
「悪ふざけ」が正式採用に
マスク氏はトランプ氏のそばに控えているだけでなく、次期政権で役割も与えられた。新組織「政府効率化省」を、実業家のビベク・ラマスワミ氏と共同で率いることになったが、この組織自体がそもそも、マスク氏の提案により生まれたものだ。
マスク氏は、24年7月にトランプ氏が銃撃を受けた直後、大統領選で同氏を支持すると正式に表明。X(旧ツイッター)上でトランプ氏と対談した8月には、「インフレは政府の過剰支出によってもたらされる。『政府効率化委員会』のようものが必要だ」と水を向けた。トランプ氏は当初、関心を示さなかったが、マスク氏は繰り返しこの話を持ち出し、運営に自ら協力するとアピール。トランプ氏は最終的に「ぜひそうしてほしい」と返答した。 この時点では「委員会」と呼ばれていたが、マスク氏は9月になると、Xに「『政府効率化省』は素晴らしいものになる」と書き込むようになり、次期政権も名称を採用した。英語名「Department of Government Efficiency」の頭文字を取った略称「DOGE(ドージ)」は、マスク氏が推奨している暗号資産(仮想通貨)「ドージコイン」と一致しており、これが「委員会」から「省」に変遷した理由とみられる。マスク氏の「悪ふざけ」が正式なものとして認められた形だ。 トランプ氏の発表によれば、「効率化省」は、次期政権が「官僚主義を打破して過度な規制を減らし、無駄な歳出を削減し、連邦政府機関を再編するために道を開く」役割を担う。「省」と名付けられているが、政府外から助言を行う組織という位置付けだ。