「あまりの暑さにレールがゆがむ」見落とせば脱線、大事故…酷暑で鉄道ピンチ でも対処が難しい「深刻な事情」
線路の安全対策に長年携わった元JR西の社員は、保線現場の人手不足の影響も指摘する。 「どこの会社でも現場の人が減っている。かつては張り出しなどのトラブルが起きやすい区間を経験で把握していた。暑さだけでなく、熟練作業員が減っていることも影響しているのではないか」 ▽問題は日本だけではない 酷暑による鉄道への影響は、日本だけではない。欧米でも深刻だ。イギリスで大半の鉄道網を所有する国有企業「ネットワーク・レール」が開示した資料によると、2022年4月~23年3月は猛烈な熱波の影響で計約6300時間の遅れが生じた。 経営面への影響が大きいことも明らかになっている。この時期の暑さが原因で生じた追加コストは2800万ポンド、日本円で50億円を上回る規模となっている。 ▽技術開発でどこまでカバーできるか 気候変動と鉄道業界の人手不足という二重苦を、技術開発で補う動きも進んでいる。
鉄道総合技術研究所(鉄道総研)は、つなぎ目が少ない「ロングレール」を採用した上で、レールの下に敷く「バラスト」に土砂を混ぜてセメントで強固にする工法を考案した。レールがゆがむ「張り出し」が起きやすいのは、バラストの密度が低い時だからだ。ゆがみを抑えつつ、保守作業の頻度を減らせるメリットがある。 ほかにも、保線工事後のバラスト密度を高める工法や、同じく鉄を用いる分岐器の部品での暑さによるトラブルを防ぐ技術の研究も進めている。 さらに、気象や地形などのデータからレールの温度を予測するシステムも開発した。気象庁のデータを利用することで比較的安価に導入可能で、全国ほとんどの鉄道路線に対応できるという。主任研究員の浦川文寛さんが意図を説明する。 「温度が高いレール箇所を抽出し、散水したり日光を反射する白色塗料を塗ったりするなど、効率的な対策が可能になる」 ▽専門家は「大事故が起きる前に対策を」