セブン、創業家提案は「悪手」 ユニゾ破綻が示す“借金買収”の危うさ
買収で債務過多のリスク
日本経済新聞などによると、創業家の提案ではメガバンクから投融資を受ける方向で検討を進めている。つまりLBO(借り入れで資金量を増やした買収)になる公算が高い。借入金の額が増えれば利息の負担が大きくなり、キャッシュフロー次第では、これまでのように成長投資に資金を振り向けられなくなる恐れもある。 過去に実例がある。かつて東証1部に上場していたユニゾホールディングス(HD)だ。主力の不動産事業が好調なことから、19年以降、大手旅行会社や米投資会社などが買収に動いた。会社側はこれらに同意せず、EBO(従業員による買収)かつLBOを実施して20年6月に上場廃止となった。その後、23年4月に民事再生法申請に至った。 東京大学社会科学研究所の田中亘教授は「ユニゾの件は新型コロナウイルス禍の影響もあったと思うが、買収によって債務過多になることもある。LBOで買収合戦になることの危うさを示している」と指摘する。 経済産業省は23年8月に「企業買収における行動指針」というガイドラインを示しており、そこにはこう記載されている。 「企業価値向上には資すると判断されるが価格が十分とは言い難い提案に取締役会が賛同する例外的な判断をするのであれば、その判断の合理性については、十分な説明責任を果たすべきである」 田中氏は「要するに『買収価格が低い方の提案がいいとする場合は、株主に対して十分説明をしなさい』ということだ」と説明する。 今回、複数の提案が出たことによってセブン&アイの特別委がどのような判断をするか注目度は一層高まっている。M&A業界関係者の一人は「株主のためになるかどうかを判断するのは確かに株価だ。だが、消費者として、セブン&アイの歴史を知る関係者して、価格が高いからそちらに売れば良いだろうとは思わない」と複雑な心境を明かす。 セブン&アイの特別委は独占禁止法などの法律上の問題以外に、買収金額の多寡だけで判断するのか。それとも他の何かを考慮するのか。いずれにせよ株主や従業員、ひいてはセブンイレブンで日々買い物をする消費者も納得できる説明が求められる。
高城 裕太