村上春樹 自身のラジオ番組『村上RADIO』で60~70年代に活躍した2人の女性名作詞家を特集「作詞家特集はこの番組で初めてのことです」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。9月29日(日)の放送は「村上RADIO~安井かずみと岩谷時子の世界~」をオンエア。今回の『村上RADIO』は、1960年代~70年代にかけて活躍した2人の日本人女性作詞家、安井かずみと岩谷時子の特集。洋楽の訳詞が始まった背景や、日本のポピュラー音楽史を振り返りながら、2人の歌詞世界をたっぷりと紹介しました。 この記事では、冒頭2曲について語ったパートを紹介します。
今回の『村上RADIO』は、1960年代~70年代にかけて活躍した2人の日本人女性作詞家、安井かずみと岩谷時子の特集。洋楽の訳詞が始まった背景や、日本のポピュラー音楽史を振り返りながら、2人の歌詞世界をたっぷりと紹介しました。 こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今日は1960年代~1970年代にかけて活躍した、2人の傑出(けっしゅつ)した日本人女性作詞家の特集をお届けします。安井かずみさんと岩谷時子(いわたに・ときこ)さんです。そういえば、作曲家の特集はあっても作詞家の特集って、この番組で初めてのことですね。そんなわけで、今日おかけする音楽はすべて日本語の歌詞ということになります。
<オープニング曲> Donald Fagen「Madison Time」
岩谷時子さんは1916年生まれ、安井かずみさんは1939年生まれと、20歳以上の年齢差はあるのですが、お2人には大きな共通点があります。最初は洋楽の訳詞を主に手がけられ、やがてオリジナルの日本語作詞家に転向して、それぞれに時代を画(かく)する作詞家となったという点です。また活躍された時期もだいたい、ぴたりと重なっています。 今日はまず2人の訳詞家としての作品を中心にご紹介し、後半にオリジナルとして書かれた歌詞のものをおかけしたいと思います。
◆ダニー飯田とパラダイス・キング、坂本九「G.I.ブルース」 ◆田辺靖雄・梓みちよ「ヘイ・ポーラ」
まずは安井かずみさんから行きましょう。彼女は1939年生まれ、生きておられれば85歳になります。でも肺がんのために、1994年に55歳で亡くなりました。ご主人はトノバンこと加藤和彦さん。2人は仲睦まじいファッショナブルなカップルとして、常にマスコミの注目を浴びていました。安井かずみさんは、才能溢れる作詞家であると同時に、若く美しく、カリスマ的な人気を誇る時代の寵児(ちょうじ)でもあったわけです。 彼女は横浜生まれで、フェリス女学院を出て、文化学院在学中からすでに訳詞の仕事を始めていました。語学が得意だったし、言葉のセンスも鋭かった。 彼女が最初に手がけたのは、エルヴィス・プレスリーの新曲「G.I.ブルース」。ある楽譜会社に遊びに行ったときに、「これをちょっと訳してみて」と言われて、ほいほいとその場で訳したものがそのまま採用され、坂本九さんの歌でレコーディングされ、大ヒットしました。すごいですね。 そしてその勢いで彼女は、外国製のポップソングに日本語の歌詞をつけ、次々にヒットさせていきます。聴いてください。まずは彼女のそのデビュー作「G.I.ブルース」、坂本九が歌います。バックはダニー飯田とパラダイス・キング。そして田辺靖雄と梓みちよのデュエットで「ヘイ・ポーラ」。どちらも作詞者は「みナみカズみ」というペンネームになっています。 (TOKYO FM「村上RADIO~安井かずみと岩谷時子の世界~」2024年9月29日(日)放送より)