【舛添直言】インド総選挙、「楽勝」予測の与党連合が「辛勝」に落ち込んだ3つの理由
■ 現実主義外交 ロシアのウクライナ侵攻に対して、インドをはじめBRICSは制裁を加えたり、厳しく非難したりしていない。 しかし、アジア太平洋の安全保障に関しては、2007年5月から、日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4カ国のクアッド(4カ国戦略対話、Quad)という枠組みが機能している。現実主義的なインドは、自国の国益にかなう組織には参加する。 インドは、アメリカとの接近も試みている。アメリカにとっては、インドが過度にロシア寄りになるのは困るのであり、インドを西側に引き寄せる必要がある。バイデン大統領は、2023年6月22日、モディ首相を国賓として招き、首脳会談を行った。 その背景にあるのは、米印両国がともに中国への警戒心を高めていることである。インドは中国との間で長年にわたって国境紛争を繰り返しており、その中国を牽制するためにもアメリカ・カードを切ったのである。 インドはロシアから武器や石油を輸入し続けているが、同時に武器調達先の多角化も図っている。アメリカのGEは、戦闘機のエンジンをインドの国営企業と共同生産する。また、アメリカは、インドに艦船の補給や修理の拠点を設けることを決めた。 インドは、ロシアであれ、アメリカであれ、利用できる国はどこでも利用するプラグマティストである。インドはまた、アフリカにも触手を伸ばしている。さらには、月面着陸に続いて、太陽観測衛星打ち上げに成功し、宇宙大国としての地歩も固めつつある。 今後の連立政権交渉にもよるが、以上のような現実主義外交については、モディ政権3期目も大きな変化はないであろう。 日本はインドとの経済的結びつきを強化している。インドに進出する日系企業は約1400社(2022年)で、貿易総額は3兆円(2023年)にのぼる。 経済関係に加えて、外交防衛についてもインドとの協力が拡大しており、昨年には航空自衛隊とインド空軍との共同訓練も行われている。中国の脅威についても、先述したクワッドのような枠組みも含め、日印両国共同で対処する必要が増している。 総選挙後のインドで、どのような形の政権が誕生するか、注目したい。
舛添 要一