【舛添直言】インド総選挙、「楽勝」予測の与党連合が「辛勝」に落ち込んだ3つの理由
インドでは、4月19日から6月1日にかけて国民議会の総選挙が行われた。与党連合が全543議席の過半数を制した。 【写真】総選挙の開票翌日、野党連合は会合を開いた。写真はインド国民会議のラフル・ガンジー(左)と妹のプリヤンカ・ヴァドラ。ともに初代インド首相ネルーを輩出したネルー・ガンジー家の出身だ しかし、ナレンドラ・モディ首相の率いるインド人民党(BJP)は、単独過半数を得ることができなかった。 ■ 予想と違った選挙結果 下院の選挙は5年に1度、小選挙区制で行われるが、今回の選挙結果は、BJPが240議席で63議席減、インド国民会議が99議席で47議席増、サマジワディ党が37議席で32議席増、全インド草の根会議派が29議席で7議席増であった。 BJPを中心とする与党連合の国民民主同盟(NDA)は293議席と過半数を獲得した。一方、国民会議派が主軸の野党連合のインド国家開発包括同盟(INDIA)は234議席を得た。 与党連合が過半数を維持したために、モディ政権は続投することになり、3期目を迎えることになりそうだ。 しかし、事前の「大勝」という予想とは異なる結果となってしまった。国内最大の人口を誇る北部のウッタル・プラデシュ州では、BJPは62議席から33議席へと激減してしまった。同州のアヨディヤでは、モスクの跡地に壮麗なヒンズー寺院を建設し、その成果を材料にBJPは圧勝する予定であった。しかし、与党の現職候補は敗退してしまった。イスラム教徒やヒンズー教徒の下位カーストが支持する地域政党の候補が勝ったのである。 野党連合は大幅に議席を伸ばし、気勢が上がっている。国民会議派は、かつてのガンジー王朝再興の機会が来たとばかりに、指導者のラフル・ガンジーの下で政権を目指す連立工作も試みるようである。 与野党入り乱れての連立政権交渉が展開される。
■ 辛勝の原因 2023年のGDP成長率は8%超であり、この経済成長を武器にして人気を博してきたモディ首相であるが、予想外の選挙結果はどうしてもたらされたのか。 第1の理由は、物価上昇と経済格差の拡大である。経済成長の恩恵を受けている高額所得者はごく一部であり、多くの国民が貧困にあえいでいる。 また、15~29歳の若年失業率は10%を超える。大学を出ても30%が就職できない。 2023年の一人当たり名目GDPは2500ドル(約39万円)で、世界144位である。 このような状況下で、相対的に貧しい層がBJP支配に反旗を翻したと言えよう。 第2の理由は、モディ首相の強権的な政治手法への批判が高まったことである。経済成長を武器に、モディ首相は強権的なヒンズー至上主義を貫いてきた。ヒンズー教徒が国民の8割を占めるとはいえ、それはイスラム教徒などの他宗派の人々の反感を招く。さらには、ヒンズー教徒の中にも、過度な宗教対立を懸念する声が高まっていた。 野党連合が、これらの批判の受け皿となったのである。雇用機会の拡大が急務である。 第3は、長期政権への飽きである。10年もの長い間政権を担ってきたモディ首相は新鮮味を失っていることは否定できない。与党連合から抜ける政党も出てくる可能性がある。