「これはほんとうの自分じゃない」とか「俺はまだ本気を出していないだけ」というのは自分をごまかしているだけ…ほんとうの自分を見つけるための「唯一の方法」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
自分探しの罠
せっかくこの世に生まれたからには、悔いのない人生を送りたい。理想の人生、ほんとうにやり甲斐のあるものを見つけたい。それが自分探しの動機でしょう。 そんなことを思うのは、だいたい仕事がうまくいかないとか、やる気が起こらないときです。イケイケのときに自分探しなどする人はいません。 自分探しをはじめるにはいったん立ち止まり、仕事を休んで時間を作る必要があります。かつてはアテもなく海外を放浪するとか、世界中を巡って見聞を広めるとかが流行りましたが、実際にうまくいったという話はあまり聞きません。そんなことをして見つけた自分が、日本の現実で役立つとも思えないからです。 そもそも自分探しをする間の生活費はどうするのか。親に頼っているようではただの甘ったれだし、自分で稼いでいるならそれがほんとうの自分で、わざわざ探しに行く必要もありません。 「これはほんとうの自分じゃない」とか、「俺はまだ本気を出していないだけ」などというのも、高齢者になった私などからすると、自分をごまかしているだけとしか思えません。ほんとうの自分など、別に探しに行かなくても目の前にあるのがそれで、それを認めないのは現実を受け入れることを拒否しているだけですから、モラトリアムということになります。 ネットでは自分探しの効用や必要性を説くサイトもありますが、よく読むとたいていは自己啓発セミナーや心理学講座に誘導するビジネス絡みです。それで救われる人もいるのかもしれませんが、自分探しをするということは、今の自分を認めないことでもあるので、新しい自分が見つからなければ、落胆して結局はもとの自分にもどるということになりかねません。 ほんとうの自分を見つけるには、今の自分に打ち込む以外にないでしょう。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)