1億円超えマンションの「スペック」から見る「資産価格」
◇バイアスを排除し、スペックと環境変化を分離する では、不動産の資産価格はどのように決まり、変動するのでしょうか。マンションを例に説明してみましょう。 とあるマンションの3階にある4LDKの301号室を購入したとします。同じ建物でも、隣の302号室は3LDKなので価格が安い。一方で同じ間取りで10階にある1001号室は、「眺めがいいから」という理由で301号室より高い値段がついている。この「眺めがいい」とか、駅からの距離や近隣の公園や商業施設の有無などは、購入者が重視する「スペック」です。このスペックの組み合わせによって、だいたいの販売価格が決まります。 そして、不動産の資産価格を予測するうえで難しいのは、「同じものは二つと存在しない」というところにあります。東京都のマンションの平均価格は毎年発表されていますが、2年続けて同じ物件が取引されることはまれなため、単純に価格を比較することができないのです。明治大学の土地もおおよその価格は計算できるかもしれませんが、この100年間、実際の取引は発生していないので、本当の価格はわかりません。 そこで私は、ある特定の場所を決めて、毎年その場所の価格を予測していくことで、不動産の価格変動を正しく把握する研究を行ってきました。ここで重要なのは、市場における時間的な価格変動を「商品スペックの変化による変動」と「経済環境の変化による変動」に分離することです。これは不動産に限らず、消費者物価指数などの算出にも使われる調整方法です。例えばパソコンやスマートフォンに前年比5%の価格上昇があったとき、そのうち何割が商品スペックの向上によるものなのか、市場環境の影響はどれぐらいなのか。これらを切り分けて考えなければ、価格変動の本当の背景は見えてきません。うまく市場データを「補正」=「品質コントロール」することが、価格変動を正確に把握するうえで大事になります。 また、不動産市場は取引の頻度やプレイヤーの数が少ないので、スペックや価格に対するバイアス(偏り、ズレ)が発生しやすいという特徴があります。とくに住宅よりもサンプル数が少ないオフィスビルなどの商業不動産でこの傾向は顕著です。このバイアスを軽減するためにも、参考にできる予測情報は多いほうがいい。そう考えて、私はこの研究を続けています。 もうひとつ、都市部の不動産の価格変動には大きな意味があります。金額の上下は間取りや築年数などだけでなく、地域・都市の経済力が強くなったり弱くなったりすることでも起こります。そのエリアの経済活動の活発さ、人口動態、教育や医療などのインフラなどがすべて不動産価値に反映されるのです。これは都市計画などの政策にも大きく関わることです。 そしてインフラの水準は、個人の観点から見れば「アクセスのよさ」「学校や病院が近い」といったスペックの一つになります。このスペックと不動産との関連は、住宅購入を考える多くの人が個人レベルでも理解しておいたほうがいいことではないかと思います。なぜなら不動産価格とは、「スペックの集合体」そのものといえるからです。