「つらい時は、自傷行為でやり過ごす」 仕事や育児をしながら… 大人になっても自傷を続ける女性たち
●いじめの後遺症、母になった今でも
村松氏によると、治療を希望する患者さんの多くは、自傷痕があることで家族や子どもに迷惑をかけることを恐れて受診するという。 自分の傷がもとで、子どもがいじめられたり家族が後ろ指刺されるのではないか。自傷行為をしなければ生きてこれなかったという事実と、それが理由で家族を苦しめるかもしれないという恐れが、彼らを治療に向かわせる。また、自分の子どもへの説明に迷う人も多い。ただの怪我ではないことが、いずれわかってしまうからだ。 ことし5歳になる娘を持つある患者さんはその苦悩をこう話す。 「正直、子どもがいる今でも切りたい衝動に襲われることはあります。でも、娘には説明できないことはしたくないから」 自傷行為は、中学生の頃に家庭内不和と学校でのいじめに耐えるために始めた。家でも学校でも強いられる極度の緊張とストレスを解消するには、それしか方法がなかった。その後、苦しかった実家を飛び出し、数年前には結婚し子どもにも恵まれた。今でも切りたい衝動にかられることはあるが、配偶者には言えないという。 「旦那は、私が自傷行為をしていたことは知っているけれど、今はやってないしやらないと思ってる。夫婦の間ではそれはもう過去のことになっています」 そんな彼女の悩みの種は、大事なひとり娘の存在だった。母親の腕の傷に気づくようになった。「お風呂に入るとき、私の腕の傷を見て『これどうしたの?猫にやられたんでしょー』って私の腕にじゃれてきたりして。そうだよ、昔、猫にやられたんだって言うしかなかったです」 一時期は手術で傷跡を消すことも検討していたが、費用の面から諦めざるを得ない。すくすくと大きくなる娘さんが、傷跡の意味に気がついたらなんと言おうか。 「本当は、隠さずに、気持ちの整理ができなくてしたんだって言いたいです。自分が頑張って、頑張って、生きるためにしたんだよって」 自傷行為をしている人が身近にいるかもしれない。そして今も自分から助けを求められないとしたら。見えざる苦悩と声にならないSOSに気づくことができるか。困難を抱える女性の支援は今、まさに始まったばかりだ。